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「じゃあね眞白さん、私は部活があるからこれで。わからないことがあったら何でも聞いてねっ。」
「はい。ありがとうございました。」
廊下から声が聞こえてきて教室の扉が開いた。
「来たで。あの子が転校生、ツバメちゃんや。」
チロに耳打ちされ、どんだけ純真無垢なかわい子ちゃんなのだろうとワクワクしながら振り返ると、そこには派手な女がいた。
長い茶髪を部分的に赤くし、原型がわからないほどの濃いメーク、デカいピアスにギリギリまでの短いスカート……
想像していたのと余りにも違いすぎて目が点になってしまった。
騙しやがったなチロのやつ……俺のタイプと正反対じゃねえかっ。
大爆笑しているチロをにらんだ。
彼女にするにはアウトだが、賭けには負けるわけにはいかない。
ああいうタイプは意外と男慣れしていないパターンが多い。
1ヶ月以内じゃなく、一週間で楽々落とせるんじゃないだろうか?
まずはこのイケメンキラースマイルで……
「トオギ、おまえバカだろ?」
イチ君が呆れ顔で俺を見ていた。
俺は考えを口に出して言うクセがある。
まさか……
「……俺…どっからしゃべってた?」
「彼女にするにはアウト。から。」
やべえ…全部じゃねえか。
ツバメちゃんがすぐ横で無言で鞄に荷物を入れている。
非常に気まづい……
「あ、あのツバメちゃん。俺、トオギって言うんだ。ヨロシクねっ。」
「どうも。」
冷たい。それにチロの笑い声がすっげえうるさい。
「あのさ、ツバメちゃんどっから来てんの?」
「磯崎町から。」
「近くじゃん!俺自転車壊れちゃってさあ、俺がこぐから一緒に帰らない?」
「スズメ。」
……うん?スズメ?
「私の名前は、ツバメじゃなくてスズメ。」
はぁあっ?
チロが床を転げまくるくらいの勢いで大爆笑していた。
「女の子の名前間違えるなんてサイテイやー!」
「チロてめぇいい加減にしろよっ!!」
「スズメちゃんこいつだけは止めといた方がええで?顔だけのアホやからっ。」
「妨害は止めろ!賭けになんねえだろっ!」
教室中に響き渡る大きな物音で俺達はピタッと固まった。
スズメちゃんが鞄を机に叩きつけたからだ。
「いくら?」
すっげえ怒ってる。
ただでさえ顔が怖いのに殺気立ってるもんだからすっげえ怖い。
「な、なにがでしょうか?」
「賭けはいくらかって聞いてんの。」
「ご、五千円です。」
いつの間にか俺もチロも仁王立ちするスズメちゃんを前に正座をしていた。
「私があんたを先に惚れさしたら全員から五千円ずつ頂く。」
えっなに?
今とんでもないこと言わなかった?
「ちょっと待ってやスズメちゃん。トオギは見た目よりウブやから女の子から迫られたらヤバイわっ。」
チロがカチンとくることを言いやがった。
「なんで俺までその全員とやらに入ってんの?五千円取られんのイヤなんだけど?」
イチ君が俺が負けることを前提で話してやがる。
「どうなの?やるのやらないの?」
スズメちゃんが俺だけを睨みつけて聞いてきた。
なんなんだこの自信満々な態度は。
どいつもこいつも…なんで俺が負けると思ってるわけ?
「やるに決まってんだろっ。勝つのは俺だっ!」
「ふ〜ん…どんな手でくるか楽しみにしてるわ、トオギ君。」
スズメちゃんはじゃあと言って余裕の表情で教室から出ていこうとした。
「絶対お前の口からトオギ君好きって言わせてやるからな!」
スズメちゃんはチラリとこちらを見たあと、ベッと舌を出して出て行った。
あっ……
今のはちょっと可愛かったかも……
「可愛いとか言うとる場合か!!」
チロにどつかれた。
どうやら声に出ていたらしい。
「五千円あったら彼女とうまいもん食いに行けるのにな〜。」
イチ君が盛大にため息をついた。
だからなんで俺が負ける前提なんだよ。
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