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今日は放課後にクラスの親睦会としてみんなでカラオケに行く予定だったのだが断った。
あれから俺とスズメちゃんの賭けに進展はない。
俺はなんとかスズメちゃんを振り向かせようと頑張ってはいるのだが、いつもツーンと素っ気なく交わされていた。
俺ってそんなに男として魅力ない?
すっかり自信を失い、とてもはしゃぐ気分にはなれなかった。
「ごめん委員長。今度は絶対行くからさ。」
「用事があるなら仕方ないよ。本当は眞白さんの歓迎会も兼ねてたんだけど、彼女も来ないみたいだし……」
来ない?
せっかくみんなと仲良くなれるチャンスなのに。
そう言えば転校してから二週間以上経つけど、スズメちゃんて他人と変に壁を作ろうとしてるよな……
チロとイチ君にもごめんと謝ってから教室を出た。
二人にはまだ諦めないとは言ったものの、正直これからどうアプローチしたらいいのかわからない。
ナンパなら脈がなさそうならすぐ次って代われるのに。
たった一人の女の子に好かれようとするのって思った以上に難しい……
夏休みは終わったものの、ビーチは今もマリンスポーツや海水浴を楽しむ人達で賑わっていた。
俺がいつものように自転車で海岸沿いの道を通って帰っていると、前方に自転車を停めて座り込んでいる人が見えた。
あれって……
一旦は通り過ぎたものの、すぐさま思い直して引き返した。
どうやら自転車のチェーンが外れて困っているらしい。
「直してやろうか?スズメちゃん。」
俺が後ろから声を掛けると、スズメちゃんは目をパチクリさせながら振り向いた。
俺が助け舟を出したことがそんなに意外だったのだろうか…驚きすぎだろ。
「手ぇ真っ黒じゃん。何分やってんの?」
「あんたには関係ないでしょ?」
「下手くそだな。それだとチェーンがねじれる。」
「うるさいっあっち行って!」
「チェーンが内側に落ちた場合は一番小さいギアに変速機位置を合わせて、チェーンをギアにしっかりかけてからペダルをゆっくり逆方向へ半回転させんだよ。わかった?」
相変わらずいけ好かない女だ。
やり方は教えたし嫌がられてるようだから去ろうとしたのだが、シャツを手で引っ張られた。
……っておい!俺のシャツ、真っ黒に汚れたじゃねえか!
「……やっぱり直して……」
─────ちょっ……
なに気弱な感じでおねだりしちゃってんの?
俺って単純なのかな……
今までの怒りはどこへやら…可愛いとか思ってしまった。
「直しといてやるから、海いって手ぇ洗ってこい。」
首にかけてたタオルを取ってスズメちゃんに貸してあげた。
「このタオル汗臭い。」
「悪かったなぁ汗っかきで!」
スズメちゃんは少し口元を緩ませると、防波堤の階段を下りて砂浜へと走っていった。
なんだろな……
憎まれ口ばかり叩くからマジでムカついているし、あのメイクと派手な格好は俺の中では有り得ない。
全然好みじゃないのに、たまにすっごく可愛いなって思ってしまう……
どんな顔して笑うんだろうとか想像してしまう……
女の子の行動ひとつひとつにここまで感情的になることなんて今までにはなかった。
言っとくがこれは決して好きとかいう感情ではないぞ?
賭けがあるからちょっとセンチメンタルになってるだけだ。うん。
遅いな……
もうとっくに直ったのに。
まさか溺れてんじゃないだろうな?
心配になって砂浜までいってみると、スズメちゃんは夕日で赤くなった海の方を眺めながらたたずんでいた。
スズメちゃんて…背が高いしスタイルがいいからこういうの絵になるよな。
……って、別に見とれてねーし。
「トオギ君…あの島はなに?」
俺が近付くとスズメちゃんは前を見据えたままで尋ねてきた。
スズメちゃんの視線の先には、樹木がこんもりと生い茂った大きな島と小さな島が寄り添うように並んでいた。
「ああ、あれは神の島って書いて神島って呼ばれてる島。」
「神島?神様が住んでるの?」
「昔はあの島に神社があったんだ。神社合祀運動ってので随分昔に無くなっちゃったけどな。」
神島は古来から神の島として信仰され、人の手がほとんど入らない自然の森が残る島として維持されてきた。
明治時代末期に行われた神社の合併政策により、全国的に神社の数は減らされ、神島の神社もその対象となってしまった。
神社が無くなった今でも、神島に残る木は神木として崇められ、伐採はもちろん上陸することさえ禁じられている。
地元では誰もが知っている話なのだが……
スズメちゃんは俺の話を聞き終わるとポツリとつぶやいた。
「神様でも…帰る家が無くなっちゃうんだね。」
─────スズメちゃん……?
「行こ、もう直ったんでしょ。」
スズメちゃんは俺からの視線を避けるようにクルッと回ると、自転車のある方向に足早に歩いていった。
気のせいかな……
スズメちゃんの横顔がとても寂しげで泣いてるように見えたんだけど……
俺とスズメちゃんは暑い〜だの学校つまんね〜だのたわいもないことを会話しながら並んで自転車をこいだ。
「私の家こっちだから。」
俺の家の道とは分かれ道になってしまったようだ。
「送ろうか?」
「もうすぐそこだから大丈夫。」
俺だけかな……
このまま別れてしまうのが寂しい。もう少ししゃべっていたいと思うのは……
「あのさ、スズメちゃん。今度デートしない?」
「デート?」
「さっきのあの島まで。」
「上陸禁止なんでしょ?却下。」
俺のアホ。ただの冗談ぽいやり取りになっちまった……
「それよりも……」
スズメちゃんはそう言うと下を向き、ぎこちない仕草で口元に手をやり頬を染め出した。
なんだ?
急に照れ始めたぞ?
「あのっ…今日は、自転車直してくれてありがと。」
それだけを小さな声で言うと、急いで自転車に乗って去って行った。
ちょっと待て……
たかがお礼言うだけでモジモジしすぎだろ!
すっげえキュンキュンしちまったじゃねえかっ!
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