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張り切って中庭まで来たもののどうやって切り出しゃいいんだろ……
だいたいワケありのワケってなんだ?
都会からこんな海しかないような街に一人で引っ越してくる理由って一体なんだよ。
スズメちゃんの家族はどこに住んでるんだ?
神様でも…
帰る家が無くなっちゃうんだね──────
あの時言ってたスズメちゃんの言葉……
スズメちゃんて……
家族、いるのかな?
「トオギ君。さっきから木の影でブツブツ独り言いってるの気持ち悪いんだけど?」
やっべ…いつの間にか声に出てた。
離れてたから内容までは聞こえてないよな。
「こんな暑いとこでよく弁当が食べれるな。」
「そう?木陰だから結構涼しいよ。」
本当は優しく声をかけるつもりだったのに…なに減らず口叩いてんだ俺っ。
スズメちゃんの座ってるベンチに間を開けて腰掛けた。
チラッと見えたお弁当が思ってた以上に美味しそうだ。
これってスズメちゃんが作ったんだよな。
意外と家庭的じゃん。
「なに?食べたいの?」
俺、そんなに物欲しそうにジロジロ見てたのかな……
「うん食べたい。卵焼きちょうだい。」
誰があんたなんかにっと怒られると思ったのだが、スズメちゃんは箸で卵焼きを一切れつまむとアーンとしてくれた。
「トオギ君、ヒナ鳥みたい。」
そのままパクっと食べた俺を見て、スズメちゃんは可笑しそうにクスクスと笑った。
へぇ…スズメちゃんて笑ったら目尻がクニャッと下がるんだ。
濃いアイメイクのせいでつり目に見えてるだけで、すっぴんはタレ目なのかもしれない。
「スズメちゃんて絶対すっぴん可愛いよな?」
「いきなりなに言ってんのよ。」
「今度俺にだけすっぴん見せてよ。」
「だからなに言ってんの?」
スズメちゃんの頬が赤くなっている。
これは演技なんかじゃない。
スズメちゃんは俺が思ってるよりずっと純真なのかもしれない……
「スズメちゃん。今度デート行こ?俺の弁当も作って。」
「なんで私が……」
「いいじゃんっ。スズメちゃんが行きたいとこどこでも連れていってあげるから。」
スズメちゃんのそばまでグッと近寄り、箸を持っていた手を握った。
間近で目が合ったスズメちゃんの顔はカ──っと真っ赤になり、瞳は困ったようにユラユラと揺れていた。
「あ、いたいたーっトオギくーん!」
名前を呼ばれた方を振り向くと、委員長とクラスの女の子達が手を振っていた。
委員長が俺にでかい包みを手渡してきた。
なんだこれ?
「家庭科の授業でクッキー作ったんだけど、作りすぎちゃって。良かったらもらって。」
私も私も〜と他の子からも可愛い小包に入ったクッキーをもらった。
家庭科で作ったクッキー…てことはスズメちゃんも作ったんだよな?
スズメちゃんも俺にくれたりなんかしないのかな?とチラりと見たのだが……
スズメちゃんは興味無さそうにお弁当箱を包んでベンチから立ち上がった。
「ちょっ、ちょっと待ってよスズメちゃん!まだ返事聞いてないっ。」
去ろうとしたスズメちゃんを慌てて引き止めた。
「トオギ君はデートに行く相手には不自由してないでしょ?」
「俺はスズメちゃんと行きたいんだ。」
「トオギ君がこうやって私に話しかけてくるのって賭けがあるからだよね?」
それはそうなるのかも知れないけれど……
でもそれだったらスズメちゃんがこうやって俺と話をしてくれるのも賭けがあるからなのか?
胸の奥がズキンと傷んだ。
スズメちゃんは小さくため息を付き、俺の方をキッと睨んだ。
「もう私の負けでいいから、賭けは終わりにしよ。」
傷んだ胸の奥が、さらにギューっと締め付けられる……
「なに言ってんだよ……」
賭けは俺の負けだし……
そんなの…そんなのもうとっくに負けてたし!
「スズメちゃん…俺はっ……」
「私にもう構わないでっ!」
手を伸ばせば直ぐに届く距離なのに、スズメちゃんがとても遠くにいるように感じた。
スズメちゃんが抱えているものが、俺にはなにも見えない……
「……そんなこと言うなよ。俺はもっとスズメちゃんのことが知りたいっ。」
もっと知って、もっと好きになりたい。
好きにならせてもくれないのか?
「……トオギ君だって…私のこと知ったら離れていくよ……」
去り際にスズメちゃんが絞り出すように吐いた言葉……
その真意を確かめたくても、完全に俺との間に壁を作ってしまったスズメちゃんに……
聞き出す勇気が、俺にはなかった──────
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