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バイトを始めた話
バイトの話を聞いた両親は、しばらく迷っていたようだが、面接してOKならいいんじゃない、という感じだった。
「あんたと佐藤さん以外に生徒がいない学校になっちゃったから、別の私立にでも転校させようと思ってたんだけど」
「この状況じゃ、いきなり転校っていうのも無理だろうしな。まあ、同級生が一緒のバイト先ならいいんじゃないか」
平日の昼間に男手がたりなくて、という説明で紹介されたのは近所のファーストフード店だった。
その日のうちに面接できるということで、おざなりに履歴書を書いて店に向かう。
僕も何度か利用したことがあるその店の裏口から、佐藤さんに連れられて中に入る。
「基本的には日中の掃除とか、重いものを運ぶのとかやってくれるとスンゴイ助かるのよね!」
椅子に腰かけたままそう言うのは、四十過ぎくらいの人の良さそうなおじさんだった。
「いやー、助かるわー。何しろ日中ってみんなおばさ・・・女性ばっかりじゃない? 冷凍食品の段ボールだのなんだの、重いもの持たすわけにもいかないしねぇー。佐藤ちゃんは結構がんばってくれてるんだけど、やっぱ男手あると違うから!あっ、僕ァ腰やっててね、その辺の小学生よりよっぽど非力なの!」
ペラペラとまくし立てられて、履歴書も見られもせず、明日からバイトをすることになった。
「よろしくね、・・・くん」
佐藤さんがそう言って僕に少し頭を下げ、けれど僕の名前を呼んだかどうかははっきりと聞こえなかった。
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