0人が本棚に入れています
本棚に追加
夢だった交差点も2時間後には現実的だった。
大きな交差点では立ち止まらなかった。
「2度目」とも思いながら。
それでも信号待ちしている時に、ふと目を瞑る。
太陽が照りつける真夏の暑さを、頭の上方に感じつつも車の往来する音がはっきりと聞こえてくる。
轟音の音色が中心だ。
トラックの荒々しいエンジン音、ハイブリッド車の人口音、道とタイヤの摩擦音、時折聞こえるクラクション、木々から聞こえる蝉の声、バイク特有のむき出しの耳を突くエンジン音。
ピヨピヨ、小鳥の声???
いや、渡っ良いの音ではない。何だろう???
一瞬目を開くと、信号待ちの多くの人は、
ワイヤレスホンで音楽を聴いている。
音は漏れていなく、姿としてしか分からない。
前を向き、兵隊の様に並び、静かに待っている。
その空間全体の呼吸を胸に感じている。
また、風景全体の空間が歪んでいるようにも思えた。建物、人間が歪んでいるわけではないが、
どこか、空気が歪んで捩れている。
そう、肌で感じた。
そこまで“現実”に感じたのに、
肌で感じた事を意識した瞬間に戻った。
その音の輪郭は、鳥の声の波形が一層際立って表示されているかの様だった。天井の輪郭よりも、人ごみの質感は、音と気配という形で、鼓動と共に波打っている。
本当の事を先取った体験だったのだろうか。
いや、そんな事はないと、海未は思った。
僅か5分足らずでこの繰り返し。
今までの経験からは説明がつかない。
本当の事って何だろう。
珈琲を飲んだ。
人ごみの感覚が自分の中で溶け、
ミルクが混ざるように希釈されていく。
フルーティな酸味のある香りと味は最近のお気に入り。濾過するフィルターから立ち上がる湯気が、
風景の様にぼんやりと目に映っている。
どこかの人ごみに吸い込まれるように、
そして、まるで何かが終わる様だった。
あらゆる者が飲みこまれるような人ごみ。
現実的には飲まれたかもしれない。
そして飲んだ。
本当に飲んだのだろうか。
一日の始まりは、そんな風に
吸い込まれつつあるのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!