火取蛾

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しばらく歩くと やがて声もしなくなり 下から蒼い緑の匂い。 さやさやと土に寝そべる夏草たちの ()()(やま)話が夏灯籠。 『踏まれてしまったわ。あとは朽ちて枯れるだけ』 『でも生きてた頃のことなんか、今はなんにも覚えちゃいない』 『ああ、この土。あの木で鳴いてる蝉たちの、七年住んでた音がする』 あら、それは あなたの根っこが聞いてたの? 『知らないわ』 『知らないよ』 『知らないの』 『生きてた頃のことなんか』 『今はなんにも』 『何ひとつ』 『草だったかしら、わたし?』 『雨だったかもね、もしかして』 『ううん、ほんとはもうずっと』 『生きてなんて、いなかったかも』 でもさっき 私に踏まれて「踏まれたわ」って。 あとは朽ちて枯れるだけって。 『生きてた頃のことなんか』 『今はなんにも覚えちゃいない』 『あんたはだれ?』 『どこまで行くの?』 『わたしたちを蹴散らしてまで』
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