火取蛾

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ここからどこへ? いいえ、その前に。 私はどこから来たものか。 振り返ってみても、どこもかしこも真っ暗で。 くるりと回ったはずみにパシン。 枝がしなって、低い声が降ってきた。 『ええーん。えーん』 『お嬢さん後生だ、そこをどいてくれないか。坊やがむずがって起きてしまう』 切り株から伸びた若木が さわさわさわさわ揺れている。 ごめんなさい。痛かった? 『いや、どうも。昔ならお嬢さんが乗ったくらいじゃビクともしない大木だったものなのさ。それも今じゃ弱っちまって、生まれた(せがれ)もこんなにひょろひょろ。細っこいのなんのって』 あら、昔から? ずうっとここに? 『そう、ずっと昔からここにいた。あの頃はここにいるみんなを見下ろすばかりの大きな木だったものなのに。連理の木と呼ばれた(つがい)と、仲良く空へ枝葉を伸ばして』 (つがい)──奥さんがいたのね。でも、どこに? 『ほら、そこの。転がっている株があるだろ。ずいぶん前にね、良い松明になるとかで。自分も無傷じゃなかったが、ようやっとのことで生きている』 戻りたいとは思わない? ひとり残されて寂しくない? 『なんの。いまは坊やと一緒だ。寂しくない。あんたこそ、こんなところにひとりぽっちはどうしてだ? さぞかし心細かろう』 わからないの。もと来た道も何もかも。 寂しいとか心細いなんて思える何かも。 『それなら先へ進むといい。マヨヒガが待っている』
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