2/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
橋を渡ったところから、急に森が開けてきた。 空も見える。たぶん、空。 黒い梢の向こう側に、もっと深い闇がある。 黒か闇か。その違いしかないけれど。 さあぁ……っと水面を滑りながら 流れる風が頬や髪を()いていく。 夜の風は銀色の糸みたい。 ああ、違う。本当に糸があるわ。 しっとりと夜露を含んだキラキラの糸が水を渡って 私の服に絡んでる。 『お嬢ちゃん。ちょっとこっちまでおいでなさいな。  (あたし)と一緒におしゃべりしよう』 銀色の長い脚をしゃなりしゃなりと動かして 一匹の小さな蜘蛛が木立と木立を繋ぐようにレース編み。 ちょっと怖いわ。 長い脚のつま先が、三日月よりも鋭くて。 『心配しないで。別に取って喰おうってわけじゃない。  女の子なんてひさしぶり。しかも若くて可愛いときた。  見ていってよ、自慢の生糸さ。星を飲み込んで()ったのさ』 まあ、ほんとう。糸のなかで金の砂が泳いでる。 さっきは怖いと思ったけれど、その爪、お月さまなのね。 『そうさ、右の脚には右弦の月、左の脚には左弦の月。  みんなからは気味悪がられるけど、これでも(あたし)ら芸術家なの。  ほら、ウスバカゲロウも真っ青のこの繊細な織り目をご覧よ。  八本の脚をタクトにして、空の星座を写すのさ』 とってもきれい。でも星なんて見えないわ。 『そりゃあ、(あたし)が全部飲んだもの』 空が真っ暗なのはそのせいなの? 『そうさ、だってそうしなけりゃあ手に入らない。  手に入らなきゃ織ることも出来ないからね』
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!