ゴーストシティの魔人

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支配者の魔人は、なおも巨大化し続けている。 周りにいる人々は、皆、不安におびえている。 研究所のモニターでその様子を老人と青年は眺めている。 青年がつぶやいた。「くそっ、どうすればいいんだ」 老人が答えた。「落ち着いて見ていろ」 青年が返した。「そんなこと言ったって」 支配者自らの御殿を超えるほどにでかくなった魔人が、叫び出す。 「ふははははは。余はいくらでも大きくなってやる。そして、この街だけでなく、崩壊後の世界全ての支配者となるのだああ」 魔人の巨大化は、とどまるところを知らない。そのまま街中が沈黙に支配されていった。 ふと、魔人の体の一部で小さな爆発が起きたような気がした。何人かがそう思った。 しかし、少したったとき、別のところでまた爆発が起きた。更にまた。そして体中でそれが次々と発生していった。あげくには、魔人の体から電気のようなのが発生していき、それらがだんだんと表面をおおっていった。 「何だ、何が起こった」魔人が叫ぶ。その体は、炎の光におおわれていて、今にも燃え上がりそうであった。 「あぶない、逃げろ」人々は、そう叫んで、四方八方に逃げ出していった。 「うおおおお、うわああああ」絶望に満ちたかのような叫びのあと、魔人の体が、突然、大音響と共に大爆発を起こした。 その近くにあった御殿及びその周辺の建物が、巻き込まれて、破壊されていった。そしてしばらくたち、辺りが静まり返り、がれきの煙が薄くなったとき、そこには廃墟しか残っていなかった。 「おい、どうなってんだ」一連の出来事を見ていた青年は疑問を感じた。 老人が説明する。「魔人は、生体のエナジーの集まりじゃ。それが増えれば、確かに体はでかくなる。だが、何事も限度というものがある。あまりにも多量のエナジーが集まり過ぎれば、体が不安定になるに決まっとるわい」 「そりゃ、そうだよな」青年はとりあえず納得した。 周辺に逃げていた人々は、魔人が消滅したのを見届けると、いつしか、喜びの声を上げていった。 「しかし、支配者の魔人は、何であんなにでかくなっていったんだ。人1人分のエナジーだけでは限界があるはずだ」 青年の疑問に対し、老人は説明を始める。 「これを見よ」 老人が機械を操作して、モニターの映像を切り替えた。 「これは・・・」青年がつぶやく。「支配者の御殿の中にあった円柱の部屋だな。おれも行ったことがあるが。おや、円柱を回してるの、抵抗軍のやつらではないか。かと思えば、何気に、支配者の兵士共もあちこち見受けられる。これはどういうことだ」 老人は続けて操作をする。別のモニターにも映像が映った。 「何だこれ。建物の屋根の上に大きい板がいっぱい乗っかってる」 老人が話す。「これは太陽光発電じゃ。支配者様の目の届かないところにあちこち作っておいたんじゃ。それらを使ってここにある設備を動かしていたというわけなんじゃ」「あれがそうなん?見たことねえけど」「わしが独自に改良したのじゃ。それに君は、世界崩壊後に生まれたのではないかね」「まあその頃で。実のところ、太陽光発電ってよく知らなくて」 「それでそれらから発生するエナジーと、さっき見せた円柱から出たのとを、支配者様の魔人を出現させる装置に接続して、大量のエナジーが行くようにしておいたんじゃ」「え、誰が?いつ?」「わしじゃ。わしも支配者様とは顔が聞く存在だったんじゃ。それで協力する振りをして、それら一連の設備を製作させたんじゃ」「だけど、何で抵抗軍のやつらまで円柱を回してたんだ?」「あの者達は、降参した振りをして、作業に加わったというわけじゃ。支配者様の兵士達まで魔人にエナジーを送ろうとしよったがな」 「すげえ、抵抗軍、うまい作戦を考えたものだなあ」「まあ、そうするようにあいつらに提案したのは、わしじゃがな」「え?」「いや信じようが信じまいが事実じゃ。それより・・・」 老人の操作で、モニターの映像が次々と変わっていく。そして・・・。「おお、あいつら、いよいよ目的を果たさんとしておる」 見ると、御殿のあったところの廃墟に、大勢の人々が群がっている。そしてその中央のあたりに、空にそびえ立つような細い柱のようなのがある。それをよく見ると・・・。 「おお、支配者が、はりつけにされている」青年は叫んだ。 「魔人を出す機械もなくなって、全ては終わったようじゃな」老人もつぶやいた。 あのクーデター騒ぎから数日後。 青年と老人は歩きながら話している。 「どうしても行くんかね」 「ああ。何とかしておれの失った記憶を取り戻したくて。少なくともこの町には、そのための足がかりになるものがもうないみたいだしな。まあまた気が向いたら、やってくるよ、この町、『ゴーストシティ』に」 「『ゴーストシティ』か」 「そういやこの名前、あの支配者の魔人がいたからこういう名前になったんかい」 「むろんそうじゃな。よその町でもそう言われていると聞く」 「だけどもうその魔人いないから、名前変えなきゃいけないかな」 「名前だけは残るじゃろう。いずれにせよ、支配者を打倒できたのは君のおかげじゃ」 「何言ってんですか。あんたが魔人を倒したようなもんでしょうが」 「見よ、救世主じゃ」「え?」 老人が手で指し示した方向に、青年が顔を向けると、そこには一体の大きな像があった。その姿は、あの青年の魔人であった。 「人々はあの者が支配者を倒してくれたということで、その像を制作したんじゃな。残念じゃったな君が救世主と認められてもらえなくて」 「救世主なんかになりたくないですよ。これからも命を狙われそうで。第一、あんたが支配者の魔人に過剰のエナジーを送らせてやっつけたようなもんだし」 「君の魔人が戦う姿を見て人々が奮起したというのもある。まさに救世主じゃ」 「ちゃんとみんなに事実を説明してあげないと」 「そのようなことをしても、勝利の興奮がまだ冷めておらんから、大方の者には信用してもらえんじゃろう。まあその辺については、これから、これまであった出来事を書き記して資料として残しておいて、いずれ来るべきときに公開してもらうことにしようと思っとるところじゃ」 「じゃあそうしなさい。まあでも、支配者による恐怖がなくなって、これからはみんな安心して暮らしていけるな」 「いやそうとも限らない。別の者が町の支配者になれば、その采配次第ではまた似たようなことが繰り返されるだけじゃ。大事なのは人々の心がけ次第なんじゃな」 「それじゃ何かあったときは、あんたの作った機械で悪いやつらをやっつけたりすればいいではないか」 「わしはあの装置を封印する」 「え、何で?」 「いや時がたてばいずれは、わしが作ったのと同じような技術が開発されるであろう。そういった科学技術の使いかたによっては、下手すると、再び世界崩壊を招く恐れがないとも限らない。そうなるのを少しでも先延ばしできればと思っておるんじゃ。まあ、太陽光発電ぐらいは、庶民に普及させてやってもいいかな」 「そうだな。そうすれば、町中に明かりがともって、人々の暮らしが豊かになる」 「うむ」 やがて2人はいつしか、「GHOST CITY」と書かれた看板のところまで来ていた。 「お見送りはこの辺でいいぜ」 「そうか、それじゃ、達者でな」 「あばよ」 ―――終わり―――
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