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ゴーストシティの魔人
西暦20××年、地球は核の炎に包まれた。
ほとんどの人類は死滅したが、ごく一部がかろうじて生き残った。
そしてその者達によって、新しい社会が作られ始めた。
地球の陸地のあちこちに、気候などの面において人々が安定して暮らせる場所があり、そういったところに大勢の人々が集まり、やがてそれは町となっていった。
町には人民を治めるもの、すなわち支配者が現われた。良き支配者の町は、人々が何不自由なく安定した生活を送ることができた。悪い支配者の町は、人々の生活が乱れ、やがては決起した人民によって、あるいはどこからか現われた救世主によって、支配者は倒され、そしてまた新たな支配者に取って代わっていった。
こういったことが世界のあちこちで繰り返されていった。
砂漠の端に、1つの町があった。東には広大な海がある。西のほうに狭い道が延びている。それ以外にはなにもなかった。
1人の青年が崖の上に立ち、その町を眺めていた。
それから、崖を降り、そして町のほうへ歩いていった。
その途中に、看板が壊れたかのような板を見つけた。
それにはこう書かれていた。
「GHOST CITY」
それを見ながら、青年はつぶやく。
「ゴーストシティか」
そしてまた歩き始め、町のあるほうへ向かっていった。
やがて青年は、町の中に到着した。そこは、1本の道の両側に、建物がずっと並んでいた。しかし、今は夜なのだが、窓から明かりが見えない。そのため、周りが真っ暗なのである。いや、ごくたまに、明かりのある窓があちこちに見えてはいる。青年は、今夜は明かりのある家のどれかにでも泊めてもらおうかとも考えていた。
そこへ、3人の黒服姿の者達がやってきた。そして、その1人がこう言ってきた。
「夜は外出禁止だぞ」
青年はそれに返事はしなかった。そのあと、別の1人が青年の両肩をつかんで叫んだ。
「おい、何とか言ったらどうなんだ」
かなり強い力である。青年が見たところ、3人は憎悪に満ちた顔をしていた。それに反応してか、青年は突然、肩をつかんでいる両手を振り払い、3人に殴りかかろうとした。
「何、こいつ、やたら反抗的だな。よーし構わん、やっちまえ」
1人がこう叫んだと同時に、1人対3人の格闘が始まった。青年は強い。3人がかりでもなかなか歯がたたない。しばらく格闘が続いていたが、突然、青年は有り得ないような光景を目にした。相手が6人になっている?遠くから加勢が来たのではない。分身して増えたような気がした。さすがにこれほど多人数となっては、青年が捕まるのも時間の問題であった。
「ようし、こいつを牢屋に放り込んでおけ」
青年がどこかへ連れ去られようとするとき、突然、奇妙なでかい音がした。いや、音というより、誰かが話すような声であった。それが町全体に響くような、低い声である。
「この者をここへ連れてこい」
青年にも確かにそう聞こえた。黒服の者達が互いに話し出した。
「連れてこいって、もちろん、御殿にだよな、支配者様のおわせられる」
「そうだな、それ以外にはない」
「さあ来い、逃げたりするなよ」
青年はおとなしく3人に付いていった。格闘で疲れていたのもあるが、声の主の正体に興味が出てきたりもしていた。
3人の黒服の者達は、青年を連れて歩いていった。やがて、大きな建物の手前の門のところまで来た。これが御殿というやつか、と青年は思った。その建物、たくさんある窓のいくつかから光がもれている。その光、さっき見た家々の窓の光とは比べものにならないほどまぶしかった。
黒服の1人は門の側にいた2人の役人と話をしていた。そのあと、役人達が門を開け、そして3人は青年を門の奥へ、それから御殿の中へと連れていった。
そこはものすごく強い光に満ちあふれていた。少なくとも、青年がこれまで見たことがある光とは比べものにならないようなまぶしさであった。
しばらく歩いたところに大きな扉があり、そこから入っていくと、すごく広い部屋があった。向こうのほうには階段があり、その頂上に、椅子に座っている人物がいた。
「連れてまいりました」黒服の1人が話した。
「よろしい、下がれ」階段の下のところにいる役人がそう言うと、3人の黒服は、礼をしたあと、部屋から出ていった。
この部屋には他に、大勢の兵士のようなのが立っていて、連れてこられた青年を見張っていた。
「殿、この者が運命のゆくえをになうものでございます」椅子の横で水晶玉を持っている者が、椅子にいる者に話しているのを、青年は聞き届けた。
「そうか、お前がそのものか」椅子の人物が話し始めた。「どこから来た」
質問されて、青年は答えた。「当てもなく旅をしていて、この町にやってきました」
2人の会話は続く。
「何しに来た」
「特に目的はないです」
「名前は」
「えっとそれが・・・わからないのです」
「な、何だと」
「いやその、忘れたというか。それよりそういうお主は何者なんだ」今度は青年が質問した。
役人が叫んだ。「殿の御前で無礼であるぞ」
「よいよい」役人は椅子の者になだめられて下がった。
「我はこの町の支配者だ。どうかな、この町は」
「さっき着いたばかりでまだあまり見てないです。夜ですし。だけどここの宮殿の明かりがすごくまぶしくて」
「そうだろう。世界崩壊以来忘れられていた光をようやく取り戻したのだ。それより今日はもう遅い。その者の処分は明日にいたす。牢屋に入れておけ」
椅子にいた支配者は立ち上がり、どこかへ去っていった。何人かの兵士が青年の周りに来て、そして牢屋へ連れていった。
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