ゴーストシティの魔人

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青年が牢屋のある階に連れていかれたとき、辺りにはまだほんのりと明るさがあった。牢屋に入れられ、手に明かりを持っているものを含めた兵士達がみんな去ったあとは、完全な暗闇であった。入れられた牢屋には自分の他は誰もいない。青年はそのまま眠った。 目覚めたとき、光が見えた。開いた目で見ると、牢屋の壁にある窓から光が入ってくるのがわかった。昼になっていたようだ。窓には鉄格子があり、そこからは出られない。 しばらくして、兵士がやってきた。そして、牢屋の扉に鍵をさして開けて、命じてきた。 「出ろ、付いてこい」 青年は牢屋を出て、2人の兵士が歩いていくそのあとを付いていった。 それから、とある大きな部屋に入っていった。見るとそこには、真ん中に大きな柱が立っていて、その下のほうに低い円柱があり、そこから横のほうに多くの棒が突き出ていた。その1本1本を、それぞれ数人の人が押していて、それにより、円柱が一定方向に回転していた。 青年は、その1本の棒のところに連れていかれた。そこにも、2人の人間が棒を押し続けていた。 「今日からお前はここで働くんだ」 そう言って、連れてきた兵士は去っていった。 青年はとりあえず、他の人がやっているのと同じように、棒を押しながら歩くことを始めた。 しばらくたったところで、青年は隣にいる人物に話してみた。 「あのう、これ、どういうことをしているんでしょうか」 隣の人は、震えるような声で答えた。 「よくわからねえが、御殿の光を作ってるんだとか」 そこへ、鞭が飛んできた。「さぼってないで働け」数人の役人が見張っていてその1人がどなってきた。 青年は質問をやめて、作業を続けた。そのかわり、1つ理解できた。これは御殿の光を作る発電装置であると。 青年がこの町に来たときに見た辺りの風景を思い浮かべた。近くに川はない。煙もほとんどない。風もそんなに強くない。つまり、水力、火力、風力の発電装置はない。世界崩壊以来、原子力はできそうにない。太陽光発電はなさそうだ。となると、こうやって人力で御殿の中を照らす明かりとなる光を作るための電気を発電させているということだったわけだ。 そうやって大勢の労働者達は、交代でとりあえずの食事と睡眠を与えられてはいた。 こうして何日間か他の人達と一緒に青年はこの重労働を行なっていたが、あるとき、決断した。「ようし、やってやる」心の中で考えた。 兵士の1人が部屋に入ってきたのを見て、青年はそこへかけつけ、その兵士をなぐり、部屋を出ようとした。それを阻止しようと他の大勢の役人達がやってきて青年と格闘になる。青年は多人数を相手になぐるけるの攻撃を繰り返し、ひるまなかった。そして部屋を出て通路を走っていった。役人や兵士達が次々とやってくるのを構わず攻撃していき走り続けた。そして御殿の入り口の門のところまで来て、そこの役人すらもけちらし、とうとう門の外へ抜け出した。 青年は、御殿の門から飛び出したあと、とにかく足早に走り続けていった。 と、そのとき、ものすごい音がした。いや、声である。辺りがゆれ動いて響くような低い声が。この声には聞き覚えがある。そうだ、この町に来た夜にも聞いた、誰かに命令するような雰囲気のする声であった。そして今響いている声は、こうどなっているように聞こえた。 「待て~~~」 青年はその声を聞いて一瞬立ち止まりそうになりつつ、思い直してそのまま走り続けた。 再び声がした。今度はこう言っているように聞こえた。 「逃がすか~~~」 声は自分の後ろから響いてくるような気がしていた。屋敷のあったほうからだろうか。 青年は気になって、走りながら後ろを振り返った。 そのとき、有り得ないものを見た気がした。いや実際、有り得ないものであった。それは、でかい怪物、いや、巨人、いや、何というか、魔物、どう表現すればいいだろうか。形は人間と似ているが、表面が全く異なる。それが、追いかけてくる。 青年は非常に驚いて、一度完全に立ち止まった。それでもすぐさま、そのものから逃げようとまた走り出した。走りながら時折後ろを振り返ってそいつの様子を確認した。 最初は頭と胸辺りが見えていたのが、やがては体の下のほうまで見えてくるようになってきた。だんだんと近付いてきている。 もう追いつかれる、絶望か、と思ったそのとき、そのものの姿が消えた。走りながら何回か後ろを見ていて、その何度目かの振り返りでそう見えたような気がした。一度立ち止まって辺りを見回したが、いつの間にか姿が見えなくなっていた。油断してはならぬと、しばらく様子を見ていたが、やはりどこにもいなくなったようだ。完全に逃げ切ることができたのだろうか。 青年は建物の影に隠れて、休み始めた。そして、さっきまで見ていた怪物について考えてみた。そういえば気になることがあった。最初に聞いたものすごい音はそのものの声であったろうが、それは実際ものすごかった。だけどそれと比較して、足音が妙に響きのない気がした。それは確かに逃げる間に時々聞こえてはいたのだが。それと、そのものの姿である。なぜか透き通っていたような気がした。体の向こう側に空の雲や建物などが見えていた?ということは、もしや、幽霊?だとすると、色々説明は付くが、まさかね、と思い、そしてこれ以上は考えるのをやめた。 こうしてしばらく休んでいるとき、ふと、誰か人の声がした。怪物の声ではない。今度は普通の人間の声である。 「おーい、君」 青年が声のしたほうを見ると、初老の男がいた。 「どうやら君は、この町の人間ではないな」 青年は、立ち上がり、相手に対し格闘するような身構えをした。 「おいおい、あ、いや、わしはこの町の支配者様の回し者ではない」 その言葉を聞き、そして相手の姿を見て、襲いかかる気配はないと判断し、青年は構えを解いた。 「それで、おれに何の用だ。お前は誰だ」 「いや何、君にとって大事なことを伝えてあげようと思ってな。付いてきてくれたまえ」 老人は歩き始めた。青年は一瞬ためらいつつすぐ、付いていこうと決意した。老人は後ろを振り返り青年が付いてくるのを確認し、また歩き続けた。 2人はしばらく進んでいき、そして町の通りに並んでいる建物の1つのところまで来た。 「ここじゃ」老人は建物の扉を開けて入っていき、青年もそのあとから入っていった。そして老人は外を確認してから扉を閉めた。 中には、頭に頭巾をかぶっている少し不気味そうな男が1人いた。そして青年の姿を見て、それから自ら持っている水晶玉のようなものをしばらくにらみつけたあと、話し出した。 「間違いない。この者だ」 それに対し、老人は叫んだ。「おお、とうとう来たか、喜べ、皆のもの」そのあと、入ってきたのとは別のところにある扉を開けて、入っていった。 少しして、2人の男の若者と一緒に戻ってきた。いや正確には、男達に押し戻されてきたという感じである。 「おれは信用できないな」「おれもだ」 「だけど占い師が救世主だと判断している」 老人の反論に、若者の1人が説明した。 「そりゃ支配者をおびやかす者が現われるという占いの予言はおれらも知ってる。だけどこれは敵の罠かもしれないぜ。第一、その占いというのが信用できないな、科学が発達した時代に」 「その科学が原因で世界が崩壊したんではないかい」 「何だと。ええい、どこの誰だかわからん者を連れてくるんでない。そんなことをするんだったら、ここへは来るなよ」 若者達は扉を閉めた。老人は外へ閉め出されたような格好であった。 「すまんのう、せっかく来てくれたんだが。みんな他人を信用する気持ちをなくしたようで」老人は青年にわびた。「それじゃしょうがないから、別のところへ連れていってやろう。いいかな」老人は水晶玉を持つ男のほうを見た。男はうなずいた。「じゃあ行こう」 2人は建物から出て、また歩き出した。老人は目的地へまっすぐ進んでいき、青年はそのあとを付いていった。いくらか歩いていくと、また別の建物の扉の前に来た。老人が扉を開けて入っていき、青年もそのあとから入っていった。
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