ゴーストシティの魔人

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「さあここじゃ」 老人は、建物の扉を閉めたあと、家具の1つを横へ動かし、そしてその下にあったじゅうたんをめくった。すると、床に扉があるのが見えた。そしてそれを開けた。 「さあ来なさい」 そう言って、その扉の中に入っていった。青年もあとから入っていった。中は下へ降りる階段になっていた。2人が下の階の床まで降りたあと、老人はまた登っていって、扉を閉めて、また降りてきた。 その階の部屋は、かなり広かった。色んな家具や機械などが置かれていた。 「ここはわしの研究所みたいなところじゃ」 青年は部屋中を見渡した。普通ならこのようなものすごい機械仕掛けを見れば、しかも名前すら思い出せないほどの青年なら、すごく驚くはずであるが、そういう反応はしなかった。これくらいの規模のものを過去に見た記憶が、おぼろげながらあるのかもしれない。 「こっちじゃ」 老人は歩き出し、そしてとある機械のところで立ち止まった。青年はそのまま付いてきた。 「ちょっと待ってろよ」 老人はそこにある機械をいじり始めた。青年はずっとながめている。少しして、老人は青年のほうを向きながら言った。 「さあいくぞ」 老人は機械を操作し続けている。そのとき、何かが浮かび上がってきた。最初は霧のようなのだったのが、だんだんと濃くなっていき、そして人のような形になっていった。それを見て、青年は叫んだ。 「さっきの巨人?いや・・・」 それはそこにあった机の上に浮かんでいて、大きさは人の頭ぐらいで、人の形をしているが、表面の模様や姿が、青年が見た怪物とは全く異なっている。透き通っているところは同じである。 「世界崩壊前、まだ文明が栄えていた頃、とある研究が行なわれていた。人の内部のエナジーを何か形にするというシステムの開発なのじゃ。実はその頃わしもそのプロジェクトの一員だったのじゃ。その後色々あって、わしはここで研究をする機会を得ることができて、そして当時を思い出しながら、これだけの設備を作ることができたのじゃ」 「すると、さっきのあれも」 「おそらくそうじゃ。同じ研究室にいたわし以外の誰か、あるいはそこから研究成果が伝わった別の者がシステムに関わっている可能性がある」 「ということは、つまり・・・」青年は考えながら話した。「この町の支配者もここにあるのと同じ設備を所持していて、それを使ってさっき見たような怪物を作り出しているということか」 「そう、そういうことじゃ」老人は答えた。 「そしてその怪物の力を誇示してこの町を支配している」「そうじゃ」「何てやつだ、その力で町の住人を奴隷のように支配するとは」「奴隷、とな」「ああ、さっきまで御殿とかいうところにいたんだが、そこじゃ、人々にでかい車みたいなのを押させてこき使ってたぜ」「ああ、あれか」「知ってるんだ」「まあ一応、とある事情で御殿の中を見て回ったことはあるがな」「何とかならないんかい」 「まあその前に、この町の社会システムについて説明してあげよう」老人は話し始めた。「この町の住民の大半は労働者じゃ。農業を営んでいる者、工場で働いている者、商売をしている者、などなど。そしてその人達を1人の支配者様が支配している。それで人々から稼ぎの一部を税として納めさせている。それを使って、御殿を建て、その内部を電気の光であふれさせるなど色々贅沢三昧じゃ。町民が生活に困窮しない程度に、とおっしゃっておられるが、それも実のところ怪しいんじゃ」 「どうにかできないんかい」 「支配者様の下には、大勢の家来の兵士達がおる。強くて忠誠心のある者共のみを雇い入れている。町の治安を守るためとか、外からの侵略からの備えとか言っておられるが、現実は恐怖で人々を支配させておるのじゃ」 「町のみんなは立ち上がらないんか」 「実はここだけの話で内緒にしてもらいたいんじゃが、さっきのところは、抵抗軍のアジトなんじゃ。わしも顔がきくんじゃが、最近はあまり信用されておらんようじゃ。いや、わしは住民達の味方じゃから、誤解しないでもらいたい」 「それでいつ行動を起こすんだ」 「まあ、住民達がみんなで協力すれば人口比の面においては支配者様を打倒することも可能なんじゃが、しかし・・・」 「そうか、あの怪物か」「そういうことじゃ。大勢の者達が立ち向かったところで、あの魔人にかないはしない」「そうか、だめか、あの魔人、魔人・・・」「言い忘れておったが、あの怪物を、この町のみんなは、『魔人(まじん)』と呼んでおる」「そうか、魔人、何とかならないか」 「むふふ、そのために君をここへ連れてきたんじゃ」 「え、どういうこと、あ、そうか、この機械、これでこっちも魔人を作って、支配者と戦えばいいんだ」 「そういうことじゃ」「それじゃ、すぐ魔人を作ろう」「作る、というより、人間のエナジーを変換して何かに形作るんじゃ」「そ、そうだったな。それでどうやって作るんだったか。そういやさっきも見せてたな」「あれはわしの内部のエナジーを形にしたもんじゃ」「そうか、それじゃ、おれのエナジーからでも作れるわけか」「誰のエナジーからでも作れる」 「それじゃ、さっそくやってみてくれ」「うむ」老人は機械をいじり始めようとして、ふとつぶやいた。「おっと、まずはこのくらいからじゃ」そして操作を続けた。すると・・・。 「おお、出てきたぞ」見るとそれは、銀色に輝いていて、体格は人間と似ているが、それよりもずっと超越したような存在に思えてきた。老人と青年共々、その姿に感激さえしていた。 「だけどこのくらいの大きさで支配者の魔人と対抗できるんかな」青年がふともらした疑問に対し、老人は機械をいじってみせた。すると、その姿が、だんだんと大きくなっていった。部屋の天井まで達したところで、「これでいいじゃろう」と言って老人が操作をすると、その姿が見えなくなった。 「実はこれを始める前にふと気付いたんじゃ。そしたら案の定じゃった」「どういうことだ」「人によって出せる魔人の大きさや姿形が異なる。君の場合、もしやと思って、最も小さく出てくるように前もって調節しておいた。それでそのあと大きさを変えてみると、あのくらいになったわけで、しかもその調節の段階はまだ半分もいってなかったんじゃ」 「ふええ、そうなんだ。何かこっちが恐ろしくなってきそうだ。それで、人によって大きさや形が違うとか言ってたけど、さっきのお主のはどうなんで」 「わしのは機械を最大限に持っていってもあれだけしか出てこんのじゃ。年のせいというわけではないがの。むろん、人によって出てくる魔人の姿は違っていて、それだけでなく、中には何か特殊能力のあるものもおるんじゃ。それらはすなわち個々人の資質によるというとこか」 「へえ。おおそういや、おれがこの町に来たばかりのとき、黒色の兵士共が襲撃してきたりしてたけど、そのときやつらも魔人を出していたんだ。これが分身の正体だったんだ。それで、おれが出せる魔人は、もっとでかくなって、支配者の魔人と戦えるってわけだ。じゃあさっそくやっつけにいこうぜ」 「まだ早い。抵抗軍が動き出してからじゃ」「何でえ。おれ1人じゃ力不足だってかい。いやそういえば、おれがでかい魔人を出せるって、何でわかったんだい」「占い師の導きじゃ」 「占いだって?何でまたそう非科学的なのが出てくるんだ」青年は疑問に思った。 老人は説明を始めた。「世界崩壊以来、人々は物の豊かさや科学の発展に対し疑問を持つようになり、心のよりどころを求めるようになっていき、そのため占いに救いを見い出そうとしていったということじゃ。まあもっとも、世界崩壊以前も、悩み多き人々は占いなどを頼りにしていたようで、それはいつの時代も変わらぬものじゃ。そりゃ、占いは当たるとは限らないと言われておるが、さっき見た占い師のそれは確実なんじゃ」 「本当か」「うむ。それで、その占い師による予言では、いずれこの町に救世主が現われて、支配者様による支配を終わらせる、ということなんじゃ」「救世主、か」「そしてそれは、君なんじゃ。さっき占い師からそう聞いたんじゃ」 「おい本当か。いくら何でも、おれはそこまで偉くないし・・・いや待てよ、そうか、今の実験か。おれはそのでかい魔人とやらが出せて、その支配者の魔人を倒せるってことか。だったらすぐにでも始めようぜ」 「さっきも言ったが、抵抗軍が動き出してからじゃ」「何でえ。おれ1人じゃだめなんか」「だめじゃ。向こう側もそれ相応の対応策ぐらいはしておるはずじゃ」「そうかあ。それってどんな」「うーんそうだな、そういえば、あちらにも占い師がいてるはずじゃ」「占い師って、そうかあのときの。支配者の側で玉みたいなのを持ってたやつがいたな」 「そうだ、そいつじゃ。おそらくは向こう側も、君が救世主であると見抜いておる。それでしばらくは労働者として働かせておいて様子を見るつもりだったのじゃが、逃亡してしまったということで、君をお尋ね者扱いするようになったじゃろう」 「指名手配されたということか。だったらなおさら、あとには引けなくなったなあ。それで、その抵抗軍とやらは、いつ動き出すんだい」 「まだわからん」「わからんって」「こっちからきっかけを与えてやってもいいのじゃが」「だったらそうしろ。ところで、おれに魔人が出せるんだったら、他の者達にも出せるんだろ。だったらそうすれば。それとも、もうやってるの?」「だめじゃ。この研究はわしの内密のものじゃ」「あっそ。じゃあせめておれを抵抗軍に紹介するとか」 「無理じゃ。君を救世主だと紹介したりしても、敵がアジトを探り出すための罠だと言うに決まっておる。というか、さっきもだめ元でやってみたんだったんじゃが。あいつらは、抵抗軍の活動がうまくいってなくて、互いに信用しあう気持ちをなくしてしまってるんじゃ」 「それじゃあ、どうすればいいんだ」
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