ゴーストシティの魔人

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「まあ、わしにまかせなさい」老人は立ち上がって、歩き出した。 「どこへ行くんだい」青年は、聞いた。 「動かすんじゃ、みんなを」「動かすって、もしや、抵抗軍の行動を開始させる、とかじゃないだろな」「ふふふ。明日になればわかる。君の出番は、支配者様の魔人が出てきたときじゃ。そのときにここに戻ってくれば、わしが君の魔人を出現させてあげよう。今日は休みなさい。そこにベッドがあるじゃろ」「あんたは一体何者なんだ」「ふふふ、ただの老人じゃ」 老人は、階段の上にある扉から出ていった。 「どうせあれからずっと寝てなくて疲れてるから、ありがたく寝させてもらうで」 青年は、近くにあるベッドを見つけて、そこで眠り始めた。 目が覚めたとき、少し音がした。青年は起き上がり、そして部屋から出ていこうとした。 「この音はもしや」 上の部屋に登ってくると、外は人でいっぱいであった。大勢の者達が、みな同じ方向に走っていた。 「抵抗軍が行動を開始したか」 青年は外に出た。道が狭いために人にぶつかりそうで、端に寄らなければならなかった。少し動き回ってみた。人々はみんな何かを持っていた。武器のようなの、あるいはただの棒切れの者も。 青年は、近くにある建物の屋上に登った。そして町全体をながめてみた。大勢の人々が向かっている先は、御殿である。やはり抵抗軍が動き出したようだ。そしてその御殿のほうからも多くの者が出てきている。その者達は比較的立派な姿で、反対からやってきた人達と衝突し、攻撃しあっている。 「ようやく始まったのう」 ふと声のしたほうを見ると、側に老人の姿があった。青年は驚いた。 「いつの間にここに来たんだ」 「ふふふ」老人はその疑問には答えず、話を続けた。 「向こう側の軍はどうかね」「はあ、みんな鎧を着ていて剣とかの武器も持ってるから、手ごわいな」「それだけかね」「いや、よく見ると妙な姿の者が。そうか、魔人か。兵士共はそいつを出しながら一緒に戦ってるんだ」「こっち側はどうだね」「抵抗軍は、簡単な装備しかないから、相手があれでは、やられてしまうんじゃないかな。いやでも、こっちのほうが人数が多いかな」「中には、防具を付けず適当なのを武器として持ってるのもおる。あいつらは普段抵抗軍の活動をしてない普通の町民じゃ。だけどそういう人達もたくさん取り込んでるから、支配者側の軍がどれだけ兵を増やそうが、数では抵抗軍のほうが圧倒的に多い。見よ、勝負はだんだんと見えてきておる。だかしかし・・・」 そのとき、ものすごい音がした。いや例のあの声であった。 「いよいよお出ましか」老人はつぶやいた。 「庶民共め、余に逆らうとは愚かな」 その例の声が不気味にそう言ってるのが聞こえた。そしてその声の主、支配者の魔人の巨大な姿が、いよいよ、御殿の陰から姿を現した。 それを見て、抵抗軍の人々は、あわてたり逃げたりしていた。支配者側の兵士共は、皆、御殿の中へ引き揚げていった。 魔人が、歩き出して、どちらへともなく進んでいく。そして、逃げまどう人々を踏んづけたり、手で押しつぶそうとしたりした。さすがに、かなわないと見るや、抵抗軍及び一緒に参戦していた人達は、そのまま遠くへ逃げたり、建物の陰に隠れたりした。やがて、魔人の周辺には、人々の姿が見当たらなくなり、いくつかの建物のみとなっていた。 「どうせ勝負はこうなるに決まっておる」老人がつぶやいた。 「よーし、それじゃあ、おれらの出番ですね」青年は叫んだ。 「うむ」老人が答えた。 2人は、建物の屋根から降り、老人の研究施設のある建物に向かって走っていった。そしてそこに到着し、地下に入っていった。 老人は機械のところに来て操作を始めた。青年は、その近くで身構えた。すると、昨日見た青年の魔人が姿を見せた。大きさは青年とほぼ同じである。 「一言言っておくが」老人は説明を始めた。「魔人は、機械からそう遠くへは離れることができない。効果が薄れるからじゃ。支配者様の魔人についても同じじゃ」 それを聞いて、青年は理解した。「そうか、それで昨日、あの魔人からずっと逃げ続けていたら追ってこなくなったんだ」 老人は説明を続ける。「距離については、ここから御殿までは充分に有効じゃ。さあ、君も魔人を操作して、支配者様の魔人と戦ってくれ。わしはここでモニター越しに眺めて、色々操作してやる。君が外に出たら、魔人を巨大化してやろう」 「よーし、行くぜ」そう叫んで、青年は部屋から飛び出していった。自らの魔人も一緒に付いていった。建物の外に出て、御殿の側にいる支配者の魔人のほうへ走っていった。青年の魔人も同時に走っていき、その途中でだんだんとでかくなっていった。それから、青年は、支配者の魔人からいくらか離れたところで立ち止まった。そして、充分に巨大化した自らの魔人を一瞬ながめたあと、相手の魔人のほうに向かって叫んだ。 「よーし、行けー」 青年の魔人は、支配者の魔人のいるほうに向かって歩いていき、そして、いくらか手前まで来たところでいったん停止し、直立した。 支配者の魔人は、もう1人の魔人の存在に気付いてそちらに身構えたかのような動作をし、そして、叫んだ。 「何だ貴様は」すこし間を置いたあと、話しを続けた。「そうか、貴様も魔人か。それで、余に何を求める気だ」 それに対し、青年の魔人が叫んだ。相手と同じように辺りに強く響き、それでいてどこかさわやかさを感じるような叫びで。 「てめえを倒す」 青年は、魔人を動かしたりその声を出したりを、心に念じながら行なっていた。 それら2人の魔人が相対するのを、周りにいる抵抗軍の人達が見ていた。建物の陰に隠れていた者達は外に飛び出してきて、遠くに逃げていた者達は引き返してきて、その様子をながめ、そして、ざわついたりもした。 支配者の魔人は、相手の魔人の言動に対して、答えた。「余に逆らう気か。ならばかかってこい。容赦はせぬ」 そして青年の魔人が相手に近づいていき、こぶしで殴るという動作をした。攻撃を受けた支配者の魔人も、同じように殴り返した。それから、2人の魔人は、殴る、蹴る、投げ飛ばす、などといった攻撃を互いにやりあい、格闘していった。 その様子をずっと見ながら、辺りにいる人々は驚いたり興奮したりし、歓声をあげたりしていた。 「もう1人の魔人は我等の味方だ」「あれが救世主だったんだ」「がんばれー」 2人の魔人による格闘は、延々と続いていた。 「よーし、おれ達もやるぞー」抵抗軍の人々は、再び決起し、御殿になだれ込んでいった。 やがて、支配者の魔人は、立った状態から片ひざを地面に落とした。青年の魔人は、相手の背中のほうに回り込み、後ろから羽交い絞めにした。 「よーし、そのままやっつけてしまえー」周りで見ていた人々の誰かが歓声の中で叫んだ。 そのとき、支配者の魔人がしゃべり出した。「そのまま勝つ気でいるでないぞ」 人々は、ものすごくでかい巨人のような2人の魔人が格闘しているのを見続け、そして一方が相手を押さえ技に持っていったのに対し、歓喜の声を上げた。自分達の味方のほうが勝っているぞ、と。2人の魔人は、しばらくそのままの状態を保っていた。 ふと、大勢の中の1人が、つぶやいた。「何か、あっちの魔人、でかくなってないか」 その声を聞いた別の者が、よく観察してみた。そういえば、絞められているほうの魔人が、もう一方のと比べて、大きく見えた気がした。そしてそのままじっくりと眺め続けてみた。おお、そういえば、わずかずつだが大きくなっていっている。やがて他の多くの者達もそれと気付いていった。そして、ざわつき出した。不安の声で。 それから、その大きくなり続けている魔人、いわゆる支配者の魔人が、座っていたかのような姿勢から、立ち上がった。そしてこう叫んだ。 「ふはははは、驚いたか、皆の衆。余はでかくなる。まだまだ巨大化するのだ」 もう一方の青年の魔人、いや人々が言うところの、救世主の魔人、相手を後ろから締め続けていたが、その者が立ち上がり巨大化するにつれて、足が地面から離れた状態になり、やがてふくらんだ胴体に対し自らの腕が届かなくなり、そしてそこから手が離れて体が地面に落下した。 なおもでかくなり続ける支配者の魔人が、相手の魔人を片手でつかみ、そして地面にたたき付けた。それを何度も繰り返した。そのあと手から離れたときには立ち上がることができず地面に倒れた。そしてその姿が消えていった。 その魔人を操作していた青年は、がっくりと気を落とした。そして少しして、とりあえず老人のいる研究所に向かっていった。 研究所でモニター越しに一連の出来事を眺めていた老人は、青年の魔人が消えたのを見届け、それから何か行動をするでもなくそのままじっとし続けた。そして青年が戻ってきて老人に話した。「残念です。もうどうしようもないんだろうか」老人は答えた。「まだ戦いは終わっておらん」そのあと2人は、モニターで様子を見ることにした。
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