3人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
1.愛する者の声
元老院宇宙研究施設ガイアへのテロ襲撃から地球と呼ばれる惑星に亡命して、あれから約二週間が経過しようとしている。
シュシュは救助を求めるため、元老院本部へ幾度となく救難信号を送り続けていた。
しかしこの地球と呼ばれる惑星は、元老院の管轄宇宙領域内にあるとは言え、端も端の辺境の宇宙領域に位置しているようだ。そのため元老院との交信は困難を極めている。
それでもシュシュは望みを捨てず元老院へのコンタクトを続けていた。そして数えて二百三十三回目にして、やっと地球から元老院への通信が繋がり交信に成功した。
「こちらシュバリエ・シュバルツァ・シュバイン・シュタイガー・シュテットガルツォ・シュリンプより通信。元老院へ救助を求む。繰り返す。こちらシュバリエ・シュバルツァ……」
シュシュはアリサの部屋のクローゼット内に設置したポータブル・ルームの中で懸命に交信電波を飛ばし続けた。
「こちら元老院総合統括本部」
「統括本部? こちらシュバリエ・シュバルツァ・シュバイン・シュタイガー・シュテットガルツォ・シュリンプ! 元老院宇宙研究施設ガイア・兵器開発総合責任者シュバリエ・シュバルツァ・シュバイン・シュタイガー・シュテットガルツォ・シュリンプよ!
お願い助けて!」
元老院からの初の返信を耳にした瞬間、シュシュは喜びのあまり思わず感情を抑えることができなかった。
「お願い! アルベルト・アトキンソンズ・アナベル・アナスタシア・アンクルに繋いで! 彼の声が聴きたいの!」
「司令ですか?」
「そうよ! アルベルト・アトキンソンズ・アナベル・アナスタシア・アンクル総合統括司令を呼んでちょうだい!」
「了解しました。少々お待ちを」
それから程なくして通信はアルベルト・アトキンソンズ・アナベル・アナスタシア・アンクルへと繋がった。
「シュバリエ・シュバルツァ・シュバイン・シュタイガー・シュテットガルツォ・シュリンプ! 良かった……無事だったんだね……」
恋人の優しい声。シュシュはその彼の声を耳にした瞬間、張り詰めていた糸が切れてしまったかのように泣き崩れてしまった。
「ああ……アルベルト・アトキンソンズ・アナベル・アナスタシア・アンクル……」シュシュは愛する恋人の名前をただ呼んだ。
「シュバリエ・シュバルツァ・シュバイン・シュタイガー・シュテットガルツォ・シュリンプ。もう大丈夫だよ。君がいる惑星は元老院の管轄下の宙域にある。そちらには複数のエージェントも派遣されている。すぐにコンタクトをとって君と合流するように伝えるよ」
「ありがとう……アルベルト・アトキンソンズ・アナベル・アナスタシア・アンクル……早くあなたに逢いたい……あなたの顔が見たい……あなたに抱きしめられてあなたの体温を感じたい……」
「僕も君に逢いたいよ……」彼の声はとても優しげで温もりに満ちていた。
「ところでなんだけど……」と彼は話を切り出した。
「なに?」とシュシュは聞き返す。
「開発途中だったメサイア・システムの件なんだけど、設計データは無事なのかい?」と彼は尋ねてきた。
「ええ、無事よ。試作機も一機製作して、実戦テストも経過段階だけど無事に済んでるわ」
「そうか、あれは我らが銀河系の未来を担う最高のテクノロジーだ。まずは君に逢いたいという気持ちが一番強いけど、我々の未来のためにも君には早くこちらに戻って来てほしい。すぐにでも近くに派遣されているエージェントを合流させるように手配するよ」
「うん……分かった……」
「シュバリエ・シュバルツァ・シュバイン・シュタイガー・シュテットガルツォ・シュリンプ、僕は君の笑顔が早く見たいよ……」
「アルベルト・アトキンソンズ・アナベル・アナスタシア・アンクル……私もよ……」
「じゃあ、名残惜しいけど、通信を切るね……」
「うん……」
地球から遠く離れた銀河系にある元老院との通信は切れた。その後もしばらく、シュシュの頰を伝う涙は止まらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!