ティー・ロワイヤル

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春は何も言わず俺の前にしゃがみ込み ぎゅっと俺の手を握って見つめる。 「・・ありが・・とな。」 震える声を絞り出した。 きっと止めたかったはずなのに。 行かせないって拘束してでも留まらせたかった 筈なのに。 春は俺を行かせてくれた。 ちゃんと自分で決着つけさせようと。 信じてくれた。 礼を言うとふるふると首を振り 腕を伸ばして 零れる涙を指で掬う。 この手を俺は待ち望んでいる。 もうこの手しか欲しくないって わかってしまった。 握られた手をそっと離し 春の首に腕を巻きつけると 春は腰に腕を回し ぎゅっと抱きしめてくれる。 安堵するように息を吐き出す様子に やっぱり不安にさせてたんだな。と気づいた。 「・・ごめん。」 「いいよ。もう謝らないで。ちゃんと話出来たの?」 うん。と頷くと そっか。と春は微笑んだ。 「・・仕事辞めたらしい。 来週。アメリカにMBA取りに行くって。。」 ポケットから貰ったUSBを出す。 「これ大川の情報が入ってるらしい。 俺じゃどうしたらいいかわからないから お前に預けたいんだけど。いいかな。。」 春はUSBを眺め 少し思案すると コクンと頷いた。 その危険性も考慮しながら了承してくれたんだろう。 深く聞かない所もコイツらしいよな・・・。 「春。」 「ん?」 「帰る。」 うん。と頷き 春は俺を抱いたまま立ち上がった。
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