ローストビーフ

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佑が靴を脱いでいる間に 神宮寺が説明する。 「宴会の準備にもう少しお時間を頂きます。 あの。佑さんに是非お見せしたい物があると。。」 若衆の後ろにソワソワと所在なげに立っている 舎弟連中へと目をやった。 なんだろう。。と不安げに佑は俺へ視線を寄越す。 合点がいったのか 堺は頷いた。 「ああ。そうだったな。ではこちらに。」 佑を促し 廊下を進む。 不思議そうに首を傾げる佑の手を引き 後についていった。 こっちは。。 廊下の一番端のドアを開け 庭を抜ける渡り廊下を 行くと その先には道場がある。 ガキの頃 よくここで空手を習った。 扉を開け 堺は 「どうぞ。」と佑を中に入れる。 わあ。。と佑は驚きの声を上げた。 きちんと隅々まで掃除され ピカピカに光る板の間。 家の一部とは思えないくらいの立派な道場だ。 奥には畳敷きのもう一つの道場が併設されている。 佑はすっとその場に正座し 辺りを眺める。 長年やっていたからか その佇まいは美しく 思わず見惚れる程で。 他の奴らもポワンと顔を赤らめ 佑を眺めていた。 全く。 心配ごとばかり増える。 ここ数日の憔悴した感じが消え去り 凛とした雰囲気が漂い 色気さえ感じる程だった。 舎弟の横井が道場の入口でお辞儀をして しずしずと中に入ってくる。 堺の弟分。 普段は寡黙で いつもニコニコとしているが 修羅場では鬼の様に強いと聞いた事があった。 横井は 佑の前に正座し 手に持っていた剣道の防具を すっと床を滑らせるように 佑の前へ差し出す。 「正二兄貴の防具です。」 え。。 佑は固まり 目の前のそれに目をやった。
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