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ようやくファインダーから目を離した時、彼はすでにそこにいて、やはり空を撮影していた。
あの空の美しさに気づいているのは、私ばかりではなかったのだ──口惜しさと連帯感がないまぜになった感情を一瞬抱いた。けれどもその感情も、彼と目が合うやいなや、たちまちかき消えてしまった。
祭りの音が遠のいた気がした。その数秒を、どれほど永く感じたことか。
やがて彼は小さく会釈して、浴衣姿の女の子のもとへ駆けて行った。女の子はラムネを二本持っている。
再び空を見上げる。そこにはもはや、あわいの美しさはない。あの美しい一時は失せたのだ。
私は夏なんて知りたくない。
自分だけは主人公になり得ないと知っているから。
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