森幸はコウモリである

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 帰宅する。今日も諍いの声が聞こえてくる。母と父と二人の兄。森家はすぐ言い争いになる。みんな討論が趣味なんじゃないだろうか。  どうやら今日のテーマは、二番目の兄さんの進学先についてらしい。 「幸、着替えたらすぐ来いよ。家族会議をする」  また家族会議だ。こういう時、うちの家族はまるで示し合わせたように二分する。両親対二人の兄、あるいは父さんと大きな兄さん対母さんと小さな兄さん、といった具合に。  そして最後は、どちらにも与しきれない私が責められるのだ。  うんざりして、自室に戻る。  出来るだけ時間をかけて着替えながら、ふとカーテンの隙間から外を覗く。  藍色の夕空に、コウモリが飛んでいた。コウモリなんかを意識して見たのは、それが初めてだった。  独りぼっちで不恰好に羽ばたくその日陰者の生き物に、私は不意に強い親しみの念を覚えたのだった。
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