第一話 異端児

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 その新興宗教『鬼敬教(きけいきょう)』の基本は武器を捨て、獣鬼を敬い、ただ鬼化するのを待てば良いというものだ。すべての人間は『オニノトキシン』を持って生まれ、神に選ばれた者から獣鬼となり救われる。故に、その時が来るまで善行を積み、ただ安らかに待てという。 「なら、なんで俺を助けてくれなかったんだ」  蒼には、それが形だけのものに過ぎないと分かっていた。育ててくれた老婆以外は、彼を忌み嫌い、いじめられても見て見ぬふり、手を差し伸べることは決してなかった。結局のところ皆、自分の身だけが大切なのだ。そこに善なる心があるとは到底思えない。 「いいさ、俺にはばあちゃんがいるから」  蒼は、頬を緩めると軽い足取りで帰路につくのだった。
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