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しばらくして蒼は家に辿り着く。塗装がところどころ剥がれ、壁にはいくつもへこんでいる小さな一軒家。老婆の『美佐代』と蒼の二人で住んでいた。災害以前は夫と住んでいたようだが、大阪に出張していた夫は帰らぬ人となり美佐代は蒼を一人で育ててきた。
「ただいま~」
蒼の明るい声が玄関に響く。奥のふすまがゆっくりと開き、奥から美佐代が姿を現した。
「あら、お帰り蒼ちゃん。神父様のお話はどうだったの?」
しわの深い顔に笑みを浮かべた美佐代は、短い白髪に腰は曲がって歩くのも大変そうだ。彼女は元々病弱で、あまり外に出ることはないが、芯が強く周囲の反対を押し切ってでも『異端児』を育ててきたそのしたたかさは相当のものだった。
答えに窮した蒼は、気まずそうに目をそらし頬をかく。
「えぇ~と……楽しかったよ?」
あまり良い答えとは言えなかった。
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