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大山は、冷めきってしまった昼食をとると松葉杖をとり、それを支えに立ち上がる。彼の左足は膝から下がなかった。彼は壁にたて掛けてあった家族写真の目の前に立ち、しみじみと呟く。
「志郎……」
息子の名だ。写真の中では、彼の妻の隣で朗らかに微笑んでいる。
しかしその笑顔は、ある日突然失われた。志郎は大山功と同様に、研究者だった。バイオテクノロジーや人工知能の研究に関しては右に出る者はいなかったぐらいだ。しかしあるとき、他の研究者たちの妬みによって、その研究の危険性について執拗に責められ最終的には世論までもが敵に回った。志郎は、その研究の凍結と共に失踪したのだ。
「お前が生きてさえいれば、今頃――」
「オニノトキシンにも対抗できただろうに」そう呟こうとした刹那、大山の脳裏でなにかが繋がった。
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