第四話 かりそめの平和

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「ふんっ、そらっ!」  次の瞬間、山上がブーツの噴射で左に水平移動する。  しかし、それは蒼も読んでいた。むしろ、前回と全く同じ動きに驚いたほどだ。蒼が攻撃を外し、そのまま横を通り過ぎると、その背後でバーニアの噴射音が唸り出す。  『慢心』が過ぎる。  蒼は、徐々に勢いを失うガス圧に身を任せると目を瞑り、平二との鍛練を思い起こした。そして、絶対の自信を持って叫ぶ。 「――旋回!」  同時に、ブーツの右から短い噴射。それに合わせて右足首を捻り、体が左方向へ回転する。さらに、体が半回転もしないうちに、左のブーツからも噴射。綺麗な弧を描き、左足首を捻った蒼は―― 「なっ!」  山上に相対していた。山上は信じられないものを見たというように、目を見開き顔が強張っている。  しかし、蒼の後頭部を狙ったはずの拳は、蒼の顔面すぐ手前まで迫っていた。 「っ!」  蒼は冷静に、左手を腰から離し籠手で受け止める。  ――ガン!  衝突した山上の拳の皮が剥け血が滲む。 「くっ!」  蒼はその隙を逃さず右腕を引き、勢いを失った山上を力一杯殴り飛ばした。  渾身の打撃が頬へ直撃した山上は耳から地面に激突し、砂塵を巻き上げて動かなくなる。 「――そこまで!」
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