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あれから山上は態度を改め、少しずつ蒼と関わるようになっていた。大林も骨折した骨はすっかり完治しているようだ。
大林が興味津々といったように前に出て声を弾ませる。
「いやぁ、大したもんだよ、お前の鬼穿捌きは」
蒼は目を見開いた。大林が蒼へ向けるまなざしがあまりにも穏やかなものだったから。とても全治1ヵ月以上のケガを負わされた相手へ向けるまなざしとは思えない。
とはいえ、さすがになにも言わないわけにもいかず、蒼は神妙な表情で頭を下げた。
「大林さん、訓練では怪我をさせて本当にすみませんでした」
「いいっていいって。みんな見てるだろ? 頭上げてくれよ」
大林の慌てた声に蒼が頭を上げると、彼は頬をかきながら苦笑していた。
「わざとじゃなかったんだろ? もういいって。それに聞いたぜ。山上がやり過ぎちまったってな」
「それについては悪かった」
今度は山上が謝る。
「こいつ、本当はいいやつなんだ。許してもらえると助かるぜ」
大林が両手を合わせ、「頼む!」と申し訳なさそうに頭を下げる。
謝るはずが逆に謝られ、蒼はかなり混乱した。
だが同時に、少しずつ、わだかまりが解けていくのを感じていた。
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