第四話 かりそめの平和

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 平二が珍しく自分から立ち上がり、橋の下の影を出て川の手前で腰を下ろす。あぐらをかき、黄昏に輝く川を眺めながら蒼へ声を掛ける。 「おい蒼、お前も座れ。今日はタバコはいらないからよ」  蒼はタバコの箱をポケットへしまうと、平二の隣に腰を落とした。 「急にどうしたんですか?」 「なに、お前も技術面に関しちゃ相当成長したからな。周りから認められているのも、大した進歩だ」 「あ、ありがとうございます」  蒼は照れくさそうに「えへへ」と笑う。それから二人は無言で川を眺めていた。その穏やかな水の流れに心が洗われるようだった。  やがて、平二は急に真剣な表情を作り、蒼の目を見た。 「お前はなんのために鬼穿を使う? なんのために戦う? お前は誰かに認められるために鬼穿の使い方を学んだのか?」  蒼が息を呑む。平二のその鋭い眼光に怯んだ。そのまなざしは強く、なにかを伝えようとしているかのようだ。蒼はなにか言わなければと必死に脳を回転させるが、上手く考えがまとまらない。頭の中で、あれは違うこれも違うと葛藤し唸るばかりで、いつになっても明確な答えは出なかった。
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