第四話 かりそめの平和

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 平二は、蒼の心などお見通しだとでも言うように表情を和らげ、前を向く。 「獣鬼との戦いってのは、そういう慢心が身を滅ぼすんだ。なにも戦闘での死だけじゃない。気付いたときには、自分のプライドがズタズタに引き裂かれ、認めてくれていた仲間も失い、心が壊れる。だからお前は明確な目的を持て。周りの反応に一喜一憂するな。いいんだよ、周囲に合わせなくて。お前には類い稀なる身体能力と、俺から伝承された鬼穿の技術があるんだ。お前はお前にしかできないことをやれ」  一言一言が脳に響くかのようだった。蒼は言葉を発することはできなかったが深く頷き奥歯を噛みしめる。  やがて平二は、のっそりと腰を上げ橋の下へと歩いていく。その途中で立ち止まり蒼へ振り向くことなく告げた。 「さっきの質問の戦う目的だがな、仇である鬼へ復讐するためだとか、人に害を成す鬼を滅ぼすためだなんて言うやつがいる。だが、それだけはやめておけ。大事な人や仲間を失うことになるぞ」  平二のその声は今まで一番重く、彼の後悔を吐露しているようでもあった。
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