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第一話 異端児
その少年に親はいなかった。兄弟も友達も、その出自について知る者さえもいなかった。今のこの世界にあっては珍しくないことだ。
少年の名は『蒼』。
年齢は十五歳。彼は大日本生物災害の直後に生まれ、物心つく前に安全な地方の病院へ預けられた。とはいえ、誰も知らぬ間に赤子が玄関に置かれており、その保護者を見た者は誰もいない。
なぜ彼に名があるのか、それは彼と共に置かれていた紙切れへ律儀にも書いてあったからだ。
蒼は、その小さな町ですくすくと育っていった。たとえ、解明できない出自を気味悪がられても、その身体能力の稀有さから恐れられていたとしても、明日を恐れず明るさを忘れず、たくましく生き続けてきた。
そう、彼には常人離れした身体能力が備わっていた。鍛えたわけでも、戦い続けたわけでもないのにだ。子供でありながらして、大人の誰よりも腕力があり、誰よりも足が速かった。軍隊などであれば重宝されるような稀有な人材だ。
だが、この町では違った。争いは疎まれ『獣鬼を敬う』この町では。
蒼の力は、結果的に不慮の事故で他人を傷つけ、教わったことをその通りにやったとしても、必要以上の力を発揮し上手くできない。周囲からは『異端児』だと嫌悪され孤立していった。それでも蒼は、彼を見捨てなかった老婆によって育てられ今日この日まで健やかに成長した。
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