第一話 異端児

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「はぁ……」  蒼の口からため息が漏れる。その表情は疲れ果てていた。  そこは小さな町にある大きな教会。その日は敬虔な教徒たちが集まり、祈りを捧げ神父の教えを請いに来ていた。蒼も育ての親である老婆の勧めで来ていたが、居眠りをしている間に終わってしまっていた。  教会を出てすぐにため息をついた蒼に対して、周囲を歩く人間たちは冷たい視線を浴びせる。 「ったく、なんだよ『鬼を敬う』って……」  まともに整備もされず、ひび割れコケの生えた裏通りを歩く蒼は、小さな声で呟く。  あるとき、獣鬼を『神の使い』だと言った男がいた。  今こそ、神が定めし審判の時なのだと。故に『オニノトキシン』こそ神からの贈り物であり、鬼化こそ唯一の救いであるのだと説いた。  常人が聞けば狂気の沙汰としか思えない与太話だが、獣鬼になにもかも蹂躙され、希望を失い精神を蝕まれていた人々にとっては救いだった。心の弱い人間は、すがりつく『なにか』を心から待ち望んでいたのだ。その男のカリスマ性もあり、その理論の信者は増え続け急速に勢力を拡大していった。
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