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「不老不死とか訳の分かんないこと言ってる人達って、本当のこと話しても聞いてくれないんでしょ?」 「だと思います。不老不死なんてあり得ない、そもそも人魚など存在しない。そう話して通じるのなら、とっくにこんな馬鹿げたことはなくなっているはずですから」 「だよね。私はもう逃げるか隠れるかして生きてくしかないんだよね」  整形して他人の戸籍を手に入れるという方法もなくはない。祐貴はそう思ったが口にはしなかった。そんな生き方はして欲しくないと思った。 「かも、しれません」 「じゃぁ、残る謎は父の死の本当の理由か……これも訳の分かんない人達の仕業なら犯人を見つけたり立証したりは難しいのかな?」 「警察が一旦事故で処理してますからね。余程のことがない限り私達ではどうにもできないかと」 「何か悔しいけど……おかしくなっちゃってる人達に構ってても仕方ないか」  本当は諦めたくない。義一郎の死の真相を何としても突き止めたい。  糸湖の胸の内ではジリジリと何かがくすぶっている。だが、突き止めたところできっとどうにも出来ず、虚しく遣り切れない思いが募るだけだと思った。  小さく溜め息をついたところで玄関が開き閉まる音がした。 「源崎さん、日課の散歩ですかね」 「そうだね。十時と三時って言ってたもんね。おやつの時間だって覚えてたんだ」  クスリと笑う糸湖。 「糸湖さん、申し訳ないんですがもう一度この中に入ってもらえませんか?」 「え?」 「私は少しこの家の中を探索してきます。源崎さんのことは信用していますが、いざという時の退路を確認しておきたいですし、他にもからくりがないのか興味がありまして」 「なら私も一緒にいく」  祐貴は心苦しいという皺を眉間に刻む。 「何かあった時、勝手の分からないここで糸湖さんを守り切る自信がありません。すみませんが……」  大分渋い顔をしていたが糸湖は折れた。そう言われては仕方がない。この中にいれば、とりあえず別の場所に攫われることだけは回避できるのだから、大人しくしている他ないだろう。  格子越しではあるが外の景色は見えるし、風も感じられる。そんなに悪くはないと糸湖は感じた。  時折赤ちゃんの泣き声が響く以外、安定の暇さ加減が漂う駐在所の電話が鳴った。と言ってもそれは山田のスマートフォンだ。  山田は顎を乗せていた手を伸ばす。電話の相手は源崎だ。 「もしもーし、源さんどうしたんですか?」 「た、助けてくれ……バスの、落ちた……」 「源さん! 何があったんですか、源さん!」  それきり返事はなかった。一体何が起こっているというのだ。  山田は駐在所を飛び出し自転車でバスの転落事故があった場所に向かった。辿り着いた現場に源崎の姿はなく、山田は名前を呼びながら崖下も覗いてみる。 「源さーん!」  ずっと下は沢なのだがここからは鬱蒼とした雑木林にしか見えない。 「足を滑らしたような跡もないしな……ここじゃないのかな?」  山田は源崎に電話をかけてみるが一向に出ない。もう一度あたりを見回し、崖下をさらに覗き込む。その瞬間山田は背中に激しい衝撃を受け、何が起きたのかも分からないまま崖下に吸い込まれた。  そしてヒョコヒョコと弾むような足取りでやって来た猫背の男は崖下をしげしげと眺めた。 「あ、ゆうさん、どうだった?」  少しうたた寝をしていたおかげか、糸湖はそこまで待たされた感じもなく祐貴を迎えた。
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