2

2/8
前へ
/129ページ
次へ
 翌朝。  糸湖、祐貴、蓮はちゃぶ台を囲み三人で朝食を食べていた。 「ゆうさんお料理上手なんだね! 冷蔵庫にロクなものなかったはずなのにちゃんと朝ご飯なんだもん!」  ご満悦で頬を膨らませモグモグしながら糸湖は器用に喋る。  白いご飯にわかめと豆腐のお味噌汁、キュウリの浅漬けにツナ缶とちくわが入ったふわふわ卵焼き。  糸湖は基本料理が好きじゃない。義一郎のために作ってはいたが一人になってからは買い物に行ったかも怪しい。  実は義一郎の料理の腕前は破壊的で糸湖の舌が完全に馬鹿にならなかったのは奇跡だ。そのおかげか糸湖は何を食べても美味しく感じられる、ある意味幸せな舌の持ち主とも言える。 「ていうか何で蓮君までいるの?」  昨日は蓮にいてもらわないと困ると頼りにしていた糸湖だが、祐貴が〈ゆうさん〉と分かった今は用無しと言わんばかりである。  糸湖のイメージしていた〈ゆうさん〉は義一郎と同年代で、年の割にはワイルドな雰囲気のおじ様だった。だが義一郎の性格からして年齢や見かけで人柄を判断するはずもなく、糸湖は祐貴が〈ゆうさん〉であることを何の疑いもなく受け入れていた。  昨夜〈ゆうさん〉の出現にすっかり安堵した糸湖は、あれから泣きつかれて眠ってしまった。  今朝自分の部屋で目覚め、それだけでもパニックになっていたのに自室を出ると蓮が居間で新聞を読んでいて何が起きているのか理解できなかった。  さらには祐貴が朝食の用意をしていることにも驚き、とりあえずシャワーを浴びるという女子としてはやや不正解じみた選択肢を糸湖は選んだ。  そして出てくると素敵な朝食が出来上がっており今に至るのである。  優しい微笑みで祐貴が言う。 「斎藤君は私と交代で夜通し警戒にあたってくれていたんですよ」  そうだったんだ! という感謝も湧き上がったが、今の糸湖には祐貴の笑顔の輝きの方が最重要課題だ。  全体的に優しい面持ちなのに凛々しい眉。その下の垂れ気味で穏やかな二重の瞳。すっと高い鼻にスッキリとした形のいい唇。茶色っぽい髪は緩くカーブを描いていて、それが優しさをさらに醸し出しているのかもしれない。  しばらく祐貴を無心に眺めてようやく糸湖は感謝を言葉にした。 「色々ありがとうございます。蓮君も」  いかにも取って付けたような最後の名前に、無表情のまま蓮は祐貴を見て最低限の言葉を発する。 「で?」  糸湖はその声と言葉にキョトンと蓮を見た。何が『で?』なのだ?  祐貴には蓮の言いたいことが分かったらしく、にこやかに話し出す。 「あ、何も詳しいお話が出来ていませんでしたね」  そうか、と糸湖も思ったが、それを言及しているのが蓮であることに突っ込みたくなる。しかし祐貴が何の違和感もなく話し始めたのでここは一旦大人しくしておく。 「実は、私もよく分かってはいないんです。ただ教授は見つかったら最後、というようなことを仰っていて。もし昨日糸湖さんを攫おうとした奴らが偶然ではなく、糸湖さんを見つけてしまったのであれば、一刻も早く逃げて隠れなければと思ったんです」 「私に何の用なんだろう?」
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加