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「村人が全員土砂に埋もれて死んだように見せかけるということか?」 「そうです」 「はぁぁ!?」 「何をおかしなことを!」  義一郎は落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。 「この方たちは自殺志願者です。ならば身辺整理をしてきているでしょう。じゃなかったとしても、行方不明になってもおかしくはないような状況にあるはずです」  古邸はようやく悟る。 「もしかして村の神隠しは人為的で、村人が生きている限りこの先も続いて行くってことなのかなぁ?」 「そうです。梅さんには詳しく話してはいませんでしたが、村の皆さんは次は自分の番かもと、ずっと怯えながら暮らし続けているんです。ならば、これは神様がくれた千載一遇のその時、〈神隠し〉の瞬間なのかもしれません」  男衆はゴクリと唾を飲みお互いの顔を見合った。一人がゆっくりと義一郎の方を向きながら言う。 「入れ替わったとして、俺らはどうやって生きて行けばいい?」  古邸はちょっと悪い顔で笑って言う。闇の中では誰にも見えてはいないが。 「今の世の中何でも売ってるんだねぇ。偽造免許でも、戸籍でも」  男衆の一人がギュッと拳を握りしめる。 「村を飛び出した奴は必ず行方不明になった。殺されて、食べられたんだ。だから村を出ることも怖くて、結局村ん中でビクビクしながら生きるしかなかった……優にはそんな思いをさせたくない! 俺は賛成だ!」  そう強く言い放ったのは集団自殺をネットで知っていた子供、優の父親だ。 「だけど、頭数が足りないんじゃ……」 「土砂の奥深くに埋まって見つけられないってことで収まるんじゃないか?」 「いや、掘り出された奴の顔を見れば一発でバレるぞ。仮に顔を分からないようにしても年恰好が違う」  それもそうだ……と高揚は雨に打たれた身体と共に冷めて行く。  意を決したように義一郎が言う。 「源さんに頼みましょう」  この時、源崎が村人の〈神隠し〉に関係していると義一郎は気付いていた。長老に意見をした際、多分そうだと長老も言ったのだ。あの駐在所にいる警察官が代々そうなのだと。しかし何の証拠もなく心底悩ましいのだと、長老は珍しく悔しい心中を表情に出して義一郎に訴えた。  今までの駐在は金目当てだったと長老は言った。いやらしい心根が透けて見えたと。だが源崎は違う。金なんかより悪事を働くこと自体に昂りを覚え、危険を楽しんでいるのだと。  長老は人の性根を見透かす。それは義一郎にも身に染みていた。長老には下手な企みや子芝居など通用しないし、無駄なおべんちゃらも意味がなかった。  ならば、と義一郎は考えた。ここで自分の親玉を騙すというのは源崎にとって中々の危険な行為なのではないか? この先ただ親玉の言いなりになって村人を攫うだけの生活より、この方がよりスリルを味わえるのではないか?  そして自己保身のために真実を訴えるようなことはしないのではないかと。 「なるほど。俺らの辛さを分かってくれてる源さんならきっと協力してくれる!」  男衆は義一郎の意図とは真逆の思いで頷きだした。少年は雨風の中でも良く通る声で言う。 「剛志は小屋に戻って他のみんなに賛否の確認をしろ。一人でも反対なら実行しない。哲也は駐在を呼んで来い。今はまだバスの転落事故だけを知らせろ」  少年から指示を受けた男衆二人は大きく頷き足早に崖を駆け上がる。  古邸は不思議だった。この少年は小屋に避難する際に初めて見たのだが、歳は自分と変わらないくらいだろう。なのに皆を呼び捨てにし、命令口調で話すことに誰も不服を抱いている様子はないのだ。  義一郎は懐中電灯を照らしバスの中を再び覗き込んでいた。正直地獄絵図と言っても過言ではない。古邸が一瞬光に浮かび上がった光景に目を背けたところで義一郎が大きな声を上げた。
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