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「うるさい! いいから早くしろ!」  祐貴は蓮に自分の手首の結束バンドを噛み切るように言われたのだが、これが中々頑丈だった。  手錠があるから意味がないと言うのは三回目だ。うるさいと一喝されるのは四回目。細いので何とかなるかと思った祐貴だったがいい加減顎が痛い。  しかしあと一息ではあった。祐貴はこれで最後だと渾身の力を込める。 「やった!」  思わず歓喜の声をあげる祐貴。蓮はなにやらもぞもぞとしだす。そして祐貴の目の前で不思議な光景が広がった。手錠から蓮の手首がするりと抜けたのだ。 「えぇ!?」  蓮はベッドから降りると自由になった両手首を揉むようにしながら、ピョンピョンと器用に跳ねて放り出された自分の靴のもとに向かう。 「関節! 関節を外したんですか!?」  驚きとも歓喜ともとれる声を発する祐貴を無視したまま、蓮は靴の底からカミソリを取り出した。それで足首の結束バンドを切る。 「何で?」  すたすた歩きだす蓮の姿は、祐貴にとってはまるでマジシャンのようだ。  蓮は心許なく燃える蝋燭の火を燭台に用意されている大きな蝋燭に移す。数段明るくなった部屋の中には異様な本数の蝋燭があった。  煌々と灯りを放つ蝋燭を燭台ごと手に取り、蓮は部屋の扉に向かって歩き出す。 「え? 斎藤君!?」  蓮がドアノブを回すと扉は意外にもすんなりと開いた。そのまま出て行こうとする蓮に祐貴は声を大にする。 「ちょと! 置いてくんですか!」  祐貴の叫びも虚しく、蓮は本当に部屋を出て行ってしまった。 「嘘でしょう……?」  あまりの衝撃に、何に対してそう言ったのか祐貴自身分からなくなる。しばらく途方に暮れていると再び扉が開いた。  そうでしょうとも! と安堵と喜びの表情で顔をあげた祐貴はそのまま固まる。そこにあったのは確実に蓮ではない男のシルエットだった。 「まったくせっかちなお人だよぉ。もうちょっと待ってればボクがこうして来てあげたのにぃ」  軽い口調に反した低く響く声。男が祐貴に近づいてくる。その歩き方に祐貴は見覚えがあった。  ひょこひょこと弾むような足取り。 「あなたは、リュックの男!」 「これお気に入りなの!」  楽しそうにそう言うと、男は担いでいるリュックを祐貴の横にドサッと降ろしジッパーを開ける。それは昨日担いでいた義一郎のリュックではない。 「どれにしようかなぁ?」  男はリュックからハンマー、スパナ、プライヤーなどの工具をどんどん取り出しニヤリと口元を歪ませて祐貴を見下ろした。
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