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 楽しい宴はお開きとなり、糸湖は源崎邸の奥にある六畳の部屋に通された。また祐貴と一緒なのかと思ったが、ここは安全だからと別々になった。  この屋敷には部屋が沢山ありちょっとした料亭か旅館のようでもある。屋敷を囲むように続く縁側に並ぶ部屋。襖を開けても開けても部屋なのかもしれないと、糸湖は想像して少し可笑しくなる。  そうして糸湖は久しぶりに心穏やかに一人で眠りについた。意識が途切れる間際、泉美の顔が浮かび夜空を見上げたくなったが睡魔が勝って朝を迎えた。 「……何これ?」  翌朝、目覚めた糸湖は外の空気を吸おうと縁側に出る障子を開けると、そこには透明な障子が現れた。事態が把握できず糸湖はまじまじとそれを見て触ってみる。どうやら障子というよりは格子戸のようだ。  それは木製で直径二十センチ程の正方形の格子状になっている。一本一本の柱は太く、時代劇で見た牢屋を思い出させる。 「昨日もあったっけ?」  糸湖はそれを開けようと、押したり引いたり横に力を加えてみたりと頑張ってみたがビクともしない。角部屋なのでもう一方の障子を開けてみるとやはり同じだった。  焦ってパニックになりかけつつ、そうだ! と隣の部屋への襖を開けた。そこは普通に何もない。 「なんだ、もう、ビックリさせないでよ」  全身の力を抜き大きく息を吐いて糸湖は一人で笑った。照れ隠しのようにまったく、もう、と独り言をこぼしながらさらに正面の襖を開けるとまた格子が現れた。一瞬息が止まる。  どうして? 何で?  糸湖はゆっくり身体の向きを変える。縁側に向かう障子を微かに震える指先で開けてみると、やはり格子があった。心臓がクッと縮まる。  何が? どういうこと?  今度は縁側を背中にしてそこにある襖を開けようと思うが、また格子があったらという恐怖心で足が中々動かない。  何度か大きく深呼吸をして糸湖は一歩踏み出し、震える右手を左手で掴んで目を閉じ襖を開ける。恐る恐る右目だけを薄っすら開けるとそこは台所だった。  格子じゃなかっただけで力が抜けて糸湖はふう、と息をつく。しかし昨日の台所ではない。広いお屋敷には台所がいくつもあるものなのだろうか? 台所を見渡すと入って左側に扉がある。  嫌な高鳴り方をする胸に手をあてると泉美のお守りの存在を思い出した。糸湖は服の上からお守りをギュッと握って、その扉に手をかける。そこにあったのは洗面所とトイレだ。そして一見して風呂と分かる扉がある。  漠然と感じる違和感に糸湖はぐるりと周囲を見渡す。 「何で?」  窓や扉がない。  洗面所やトイレ、お風呂に窓や外に通じる扉がないのは普通の範囲内だ。台所にそれらがないのはマンションやアパートならばあり得るのだろうが一戸建てではあまりない。一般的に台所には窓や勝手口があるものだ。  だが、だということは。ここは六畳の部屋二つと水回りの空間が格子で囲われている。糸湖は生活できる最小限は保証された空間に閉じ込められていると言えるのではないか。 「どういうこと?」  糸湖は何も考えられず、いや考えたくなくてその場に立ち尽くす。 「糸湖さん、おはようございます。早いんですね」 「ゆうさん!」  いつもの笑顔で現れた祐貴に糸湖は大きく反応し駆け寄り格子を掴む。 「これって!?」 「今開けますよ」
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