メイ

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メイ

 昨日、あの子が死んだ。  あの子のいなくなった部屋はひどく閑散としていて、部屋の色調もインテリアの配置も何ひとつ変わっていないのに、別世界に来たようだった。  今さらになって、あの子の存在が自分にとってどれほど大きかったのかを痛感する。 「メイ……」  蚊の鳴くような声であの子の名前を呼んでみるけれど、応えは返ってこない。騒がしくフローリングを走る爪の音も、私の顔を無我夢中で舐める舌の感触も、もう感じられない。あるのは、抜け殻だけ。  半ば倒れるようにして床に膝をつく。また、丸い粒がぽろぽろとこぼれる。  私は、また独りぼっちだ。  あの子に出会ったのは、よく晴れた春の日だった。  大学に入り、一人暮らしを始めた寂しさから逃れるように、何気なく足を踏み入れたペットショップ。そこで、やんちゃそうにタオルにじゃれつく、ぬいぐるみみたいな子犬を見つけた。  金色の毛並みと、太くて丸っこい足をした、ゴールデンレトリバーの女の子だ。  ガラス越しに覗くと、目が合った。  一目惚れだった。  この子がいれば、私はきっと――
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