1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
メイ
昨日、あの子が死んだ。
あの子のいなくなった部屋はひどく閑散としていて、部屋の色調もインテリアの配置も何ひとつ変わっていないのに、別世界に来たようだった。
今さらになって、あの子の存在が自分にとってどれほど大きかったのかを痛感する。
「メイ……」
蚊の鳴くような声であの子の名前を呼んでみるけれど、応えは返ってこない。騒がしくフローリングを走る爪の音も、私の顔を無我夢中で舐める舌の感触も、もう感じられない。あるのは、抜け殻だけ。
半ば倒れるようにして床に膝をつく。また、丸い粒がぽろぽろとこぼれる。
私は、また独りぼっちだ。
あの子に出会ったのは、よく晴れた春の日だった。
大学に入り、一人暮らしを始めた寂しさから逃れるように、何気なく足を踏み入れたペットショップ。そこで、やんちゃそうにタオルにじゃれつく、ぬいぐるみみたいな子犬を見つけた。
金色の毛並みと、太くて丸っこい足をした、ゴールデンレトリバーの女の子だ。
ガラス越しに覗くと、目が合った。
一目惚れだった。
この子がいれば、私はきっと――
最初のコメントを投稿しよう!