夕陽が差す教室

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夕陽が差す教室

「あの子……あの子が私たちの前からいなくなったのは、なんでなんだろう?」  黒い髪の毛を三つ編みにして、制服を校則通りに着ている彼女が言った。 何かを恐れるような調子で。  夕陽が差す教室。 校内にはほとんど人が残っていないのか、もしくは彼女の言葉のせいなのか、教室内はしんとしていた。 誰もが目を背けるような重い空気の中、髪を茶色に染めて制服を着崩した、三つ編みの彼女とは正反対の彼女が口を開いた。 「馬鹿じゃねーの? そんなこと、今言わなくてもよくない? マジうぜー」  乱暴な口調でそう言ったあと、茶髪の彼女は鞄を口調以上に乱暴に、机の上に置いた。 茶髪の彼女は三つ編みの彼女をにらむ。 「……もう下校時刻だよ」  濁った空気に嫌気が差したのか、眼鏡をかけて、その眼鏡をかける原因になったであろうハードカバーの本を持った彼女が言った。 「そうだよ、僕たちもあいつらみたいにもう帰ろう?」  眼鏡の彼女に同意したのは、胡散臭い笑みを顔に張り付けて教室から出ていこうとする男子二人を指した彼だった。 胡散臭い彼や三人の女子に目線を向けられた男子たちは、片方は無愛想な表情でガタイのいい長身とひょろっとしてお調子者みたいな顔の短身。 「で、でも、あの子が──」 「今さら友達のふりしてんじゃねーよ!」  三つ編みの彼女の言葉をさえぎって怒鳴ったのは茶髪の彼女だった。 茶髪の彼女が三つ編みの彼女に向かって手を振り上げたから、あわてて近くにいた長身の彼が止めに入る。 それを見て、三つ編みの彼女は言った。 「あの子が、いなくなった理由を私は知りたいの」 「だから──」  茶髪の彼女はまた怒鳴ろうとするが、 「でも!」  という三つ編みの彼女の大きな声に驚いたのか黙る。 三つ編みの彼女は、そのまま言葉を続けた。 「でも、私は知りたい。……だから、みんなであの子のことを話して手がかりを探したいの」 「僕は賛成するよ。確かに、とても気になる」  三つ編みの彼女の言葉に、胡散臭い彼が同調した。 「俺も」「ボクも」と長身の彼と短身の彼も賛成する。 「……賛成」と眼鏡の彼女が賛成したのを見て、茶髪の彼女も折れざるを得なかった。 「いーよ、でもさっさとやれよ」  六人は各々、適当な椅子に座った。 夕陽が窓から差し込んで、長い影を作っている。 「じゃあ、私から話すね」  三つ編みの彼女はそう言って話し始めた。
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