ポルターガイストの家

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   ◇  引っ越し当日。  祖母の友人が所有する賃貸アパートから荷物を出すとき、なぜか軍手をはめて、白いタオルはちまきにした父が私達の前に現れた。  一年前、「お前たちとはもう生きていけない」と宣言して勝手にいなくなったくせに。彼は特に釈明することもなく私達の机やタンスを、用意したトラックの荷台に積み上げていく。  父は気まずさなのか、私達と目を合わせようともしない。でも、表情は軽やかで、罪悪感の欠片も感じさせていない。これは一体どういうことかと母を見ると、彼女はただ肩をすくめて見せるだけだった。何も語るつもりはないらしい。 兄だけは嬉しそうだった。  兄は両親の離婚を心の底から反対している唯一の存在だったので、私と妹は複雑な心境である。母が転地療養しなくちゃいけないほどのことをした犯人が、また不用意な態度で母を追い詰めるようなことになったらと思うと、気が気ではなかった。離婚したのならば潔く姿を消してくれたら良いものを、と腹の底で怒りを煮えたぎらせる。  もう二度と父を「お父さん」と呼びたいとも思わない。だから、私達から父に話しかけることもない。そう決意を固めていたのに。  新居へと荷物を運び込む。父が連れてきた男手のおかげで、あっさりと引っ越しは済んで、母が注文していた家具が順次届けられて、がらんとうの部屋は生活感のある部屋へと変わっていった。  夜になって人手を帰しても、父だけはなぜか居残っていた。  母はまだなにひとつ説明することなく、父がいることを当然のように受け入れている様子だった。  思えば父が「好きな人がいるから」と身勝手な言い分を残して私達に別れを告げて出ていった時も、母が居なくなった時も唐突だった。今回もまた、唐突に父が戻ってきたということなのだろうか。察することしか出来ず、私は閉口したまま否応なしの現実をただ受け入れるしかなかったのだった。
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