手紙

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手紙

結婚式はいたってシンプルな人前式だった。 その後、同じ敷地内の会場で開かれた披露宴。入り口には手作り感満載のウェルカムボードに、テーブルの案内表示も。確か夜更かししてせっせと作っていたっけな。 親族のテーブルの他には、それぞれの職場の関係者と友人。彼らが作った動画が放映され、それぞれの生い立ちや出会いについて上手に編集されている。 その映像の中に、俺の姿は映っていなかった。 一瞬期待した自分が馬鹿だった。期待なんてする資格もないのに。俺は本当の親じゃないんだ。何をガッカリしているんだ。 ケーキ入刀。あれは友達が作ったものらしい。素人にしては上出来だ。写真を撮ろうと大勢の女性が群がるのを、ぼんやりと見つめた。 俺は透明人間だった。 周りは色取り取りで、知らない人ばかり。俺だけが白黒で色を失っていた。 妻は嬉しそうに微笑み、新郎新婦を見守っている。 息子も補助カメラマンとして駆け回っていた。 幸せな空間に似つかわしくないのは、他人の俺だけ。 宴は終盤に差し掛かり、友人や上司、相手の父親が挨拶し、あとは花嫁が母親への手紙を読むという、作り上げられたお涙頂戴の場面に差し掛かった。 友人が智菜の所へ手紙を持ってきて、手渡す。緊張した娘に何か話しかけ、安心させるように肩を叩いた。 智菜は決意したように立ち上がり、折り畳まれた便箋を開いた。 ヒョロヒョロは今日は見違えるように頼り甲斐のある顔をして、優しい微笑みを浮かべている。その彼が智菜の口元にマイクを寄せていた。 「お……」 緊張した智菜の声に、会場の注意が注がれる。 「お父さんへ」
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