手紙

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「誠一さんをお父さんに紹介した時、お父さんは『お前は智菜を幸せに出来ない』と誠一さんに怒鳴りました。私は、お父さんが怒鳴ったのを初めて見ました。」 ビクビクしたあの彼は一体、どこに行ったのだろう。穏やかで聞きやすい声だった。 「その時私は、お父さんが私の幸せを本当に願ってくれているんだと分かりました……」 「…………」 言えなかったけれど。本当のところ、あの時、智菜をヒョロヒョロに預けるなんてできないと思った。心配は、伝わらないと思っていた。 そこまで読んだところで、ようやく泣き止んだ智菜が、大きく深呼吸して彼にマイクを求める。 もう大丈夫、とマイクを通じて微かな声が聞こえた。 「お、お父さん。あれから私たちはよく話し合い、誠一さんも定職に就いて頑張っています。幸せになって、お父さんを、安心させます。」 ああ、まだ声が震えてるじゃないか。 俺も気持ちが随分落ち着き、鼻水をすすりあげて娘をしっかりと見つめた。 「ごめんね。そして、今までありがとうございました」 手紙を読み終えると、会場は割れんばかりの拍手で智菜を称えた。 俺たちと誠一くんの両親に花束が贈呈された。そして、彼が描いたA3サイズの油絵が手渡された。 キャンバスに描かれているのは、俺と智菜の絵だった。優しい色遣いのその絵に、妻が「ずるい」と俺を肘で小突いた。思わず笑みがこぼれた。 なあんだ。 俺たちは、家族だったんだ。
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