あの子がいなくなった

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あの子がいなくなった

結婚式の翌日、目が覚めたのは昼だった。 一階のリビングに降りると、妻はテレビを見ていた。 「子供たちは?」 俺の言葉に、妻がキョトンとする。 「何言ってるの? 結婚して、昨日はホテルに泊まるって言ってたじゃない。もう荷物も運んだし、帰ってこないわよ」 それから「大智は部活」と付け加え、またテレビに目線を戻した。 ふーん、と頷き、水を飲む。顔を洗いに洗面所に行った。 智菜の歯ブラシとコップがない。 自室に着替えに行くついでに、開けたことのない智菜の部屋の戸をそっと押し開けてみた。 何もない。 ただ、カーテンだけが換気のために開けた窓の側で微かに揺れていた。 そうか。あの子は、いなくなったんだ。 もう、しばらく会えないのか。 気が抜けたような、寂しいような。 もう誠一くんのものになってしまったのか。まあ、もともと俺の子供じゃないけど。 それでもケンカしたり嫌なことがあれば、ちょっとだけ帰ってきてもいいと思う。うちの智菜を不幸にしたら、今度こそあのヒョロヒョロ……もとい誠一くんを殴ってやる。いや、あの時殴れば良かった。 俺が言うのも何だけど、智菜が作る料理は美味い。顔だって綺麗な方だ。女優にだって負けていない。仕事もできるし、キレイ好きだし、根性あるし。正直、あいつには勿体なかった。 今更湧き上がった怒り。そんな権利もないのに。 俺は着替えて玄関に向かった。 「どこ行くの?」 「散歩」 妻の質問に短く答え、智菜の靴が無くなってスカスカの玄関を出た。
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