あの日の貴女に逢いたい

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 「桜、そろそろ花が散るね。」  『そうねぇ。やだわぁ人間って。花が散る ってなったら、すぐに飽きちゃうの!』  「そうだね。すごく薄情。」  『あ、でも桃は好きよ!だって私が散る ってなっても来てくれるもの!』  そう言って桜が自分に抱きつく。その袂 からは薄く桜の香りが立ち上っている。 鮮やかな桃色の下に着ていた薄い緑色の単は 今や地味な茶色に染まっていて、美しく 結われていた髪はなんの手も加えずそのまま 流されていた。  「うん、自分も桜が好き。…そうだ、桜。 家で作ってみたんだ。受け取ってくれる?」  『えー友達に貢ぎ物ぉ?…って、あら!』  差し出したのは若草色の結い紐。桜の髪に 映える鮮やかなもので、両端には淡い黄色の とんぼ玉が付いている。  『わぁあ可愛い!桃って器用なのねぇ。 もちろん受け取るわ!』  「よかった。自分とお揃いなんだよ。」  『え?…ほんとだ!』  手首に巻いたそれを見せると、桜は手を 叩いて喜んだ。艶やかな髪を結ってやると、 桜はにこにこして鏡を眺めた。  『素敵だわ。』  「うん。とっても綺麗だよ桜。」  そう呟き、自分は微かに顔を俯けて桜の 髪を一房持ち上げる。  「…とっても綺麗な桜。明日、強い風が 吹くんだって。花が散っちゃうね。」  『そうねぇ。そうしたら私消えちゃうわ。 …ねぇ桃。また来年私が満開になった時、 会いに来てくれる?友達で、いてくれる?』  「…。」  その問いに、頷くことで肯定を示す。桜は 少しだけ不安そうだった顔を輝かせた。  『本当?本当ね!?約束よ桃!また来年、 貴方に会いたいわ!』  「うん、桜。私も会いたいよ。だから… 忘れちゃダメだからね。」  『ええ!』  次の日。予報通りの強い風が吹いた影響で 桜の花は全て散ってしまった。
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