最後の大売り出し

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⑸  さらにひと月後、ちょうどお盆の入りの日、商店会は会長の盛大な葬式を執り行っていた。  実は、会長は以前からかなり重い病を患っていたのだ。 「最後に七夕セールが成功して良かった」  会長の遺影を前に、しんみりと誰かが言い、参列した店主たちは皆、大きくうなずいた。 「さあ、この商店街にとって、本当に最後のセールをやるとするか」 「今度の人集めは我々でやろう」 「こちらでお金出して、それで買い物してもらうなんて変な話だったけど、楽しかったなあ」  先月の七夕セールは、違う町の住民1千人ほどに、日当なしのボランティアで買い物客となって来てもらったのだ。買い物用の金は、ひとりにつき3千円、商店会が用意して。  全て、副会長が夢見屋と組んで実行したことだ。  そして、会長の保険金が入る当てがあったからとはいえ、会長の息子がポンと3百万円を出してくれたことに、皆は感謝していた。  おそらく会長も、そのことはわかっていただろう。彼は勘当した息子を自身の保険受取人にしていたのだし。 「この町も再開発事業が開始する。時の流れには逆らえない。仕方のないことだったんだ」  商店街に最後まで残った店主たちは立退き料をもらい、それぞれ町を離れることになった。  ただひとり、会長だけがずっと再開発に反対していたが、その会長も鬼籍(きせき)に入った。 「八方丸く収まって良かった」  副会長がそう言ったが、その言葉は意味とは裏腹に、とても残念そうな響きを伴うものであった。
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