寂しい商店街

1/1
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

寂しい商店街

⑴  その町の商店街は、櫛の歯が欠けるように、ひとつ、またひとつと、店舗が減っていた。最盛期には30軒ほどもあった店構えは、今はその半分ほどになっている。  買い物客を取り戻すにはどうしたらいいのだろう、と商店会会長は、すっかり客足の途絶えた店で、今日も日がな一日考えている。  買い物客が来ないから店が減ったのか、店が減ったから客が来ないのか……。  いずれにしろ、彼は、昔の賑わいを取り戻したい、いやそんな贅沢は言わない、もう一度だけでいいから、通りをたくさんの買い物客が往来する様子を見たいと思っていた。 ⑵  ある日、そんな彼のところに、奇妙な名刺を持った若い男が現れた。  名刺には「あなたの夢を叶えます/夢見屋代表・夢野陽太(ゆめのようだ)」と印刷されている。  会長は、妙な男だと思いながらも、暇つぶしに男の話を聞くことにした。  その男、夢野から唐突に「あなたの夢は?」と、尋ねられた会長は悲痛な声で答えた。 「1日だけでいいから、賑やかだった商店街の輝きを取り戻したいんだ」 「なるほど……。わかりました、お任せください。ただし、ちょっとお金はかかります。ご用意できますか?」 「どれくらいかかるのだ?」  男は、背広の内ポケットから小さな電卓を出して数字を弾くと、いぶかしがる会長に見せた。 「300万円!」 「会長さんならそれくらい出していただけるかと」 「うーむ……」  予想外の大金だが、確かにそれくらいなら出せる蓄えはある。それに近々、金が入ってくる当てもある。 「では、7月7日、七夕祭りの売り出し日をお楽しみに」  男は後日の約束をして帰っていった。  会長は半信半疑だったが、成功報酬という形での依頼だったので、軽い気持ちでその日を待つことにした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!