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寂しい商店街
⑴
その町の商店街は、櫛の歯が欠けるように、ひとつ、またひとつと、店舗が減っていた。最盛期には30軒ほどもあった店構えは、今はその半分ほどになっている。
買い物客を取り戻すにはどうしたらいいのだろう、と商店会会長は、すっかり客足の途絶えた店で、今日も日がな一日考えている。
買い物客が来ないから店が減ったのか、店が減ったから客が来ないのか……。
いずれにしろ、彼は、昔の賑わいを取り戻したい、いやそんな贅沢は言わない、もう一度だけでいいから、通りをたくさんの買い物客が往来する様子を見たいと思っていた。
⑵
ある日、そんな彼のところに、奇妙な名刺を持った若い男が現れた。
名刺には「あなたの夢を叶えます/夢見屋代表・夢野陽太」と印刷されている。
会長は、妙な男だと思いながらも、暇つぶしに男の話を聞くことにした。
その男、夢野から唐突に「あなたの夢は?」と、尋ねられた会長は悲痛な声で答えた。
「1日だけでいいから、賑やかだった商店街の輝きを取り戻したいんだ」
「なるほど……。わかりました、お任せください。ただし、ちょっとお金はかかります。ご用意できますか?」
「どれくらいかかるのだ?」
男は、背広の内ポケットから小さな電卓を出して数字を弾くと、いぶかしがる会長に見せた。
「300万円!」
「会長さんならそれくらい出していただけるかと」
「うーむ……」
予想外の大金だが、確かにそれくらいなら出せる蓄えはある。それに近々、金が入ってくる当てもある。
「では、7月7日、七夕祭りの売り出し日をお楽しみに」
男は後日の約束をして帰っていった。
会長は半信半疑だったが、成功報酬という形での依頼だったので、軽い気持ちでその日を待つことにした。
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