High jump,nightjar

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あれは、夏の暑い日のことだった。 日がじりじりと肌を焼く感覚と、緊張と高揚感が綯い交ぜになって落ち着かない鼓動だけが感じられる。ふ、と息を吸って、目の前の道を見つめる。 私の勝負はたったの10秒だ。そして私の体が地上を離れた瞬間、勝負が決まる。周りには多くの人がいたが、声は聴こえない。 名前を呼ばれ、手を高く上げる。 「お願いします!」 震える声で、自分を鼓舞する。耳から飛び出てきそうなほど五月蝿い心臓を力づくで押さえつける。 タッと軽い音を立てて、目の前のバーだけを一心に見つめる。リズムを整えるための不規則な走り方で徐々に、徐々に、近づく。 足が地面を離れ、体はまるで風船のように宙に浮く。 世界が反転して見える。その瞬間を何度もイメージした。 バーの手前で踏み切ろうとした、その時だった。踏み切り足である左足首に痛みが走る。その瞬間に、体の全体重がそこにかかったような重みを感じて、踏み切りのタイミングを間違えた。 充分な高さが足りなくて、私の体はバーごとクッションへと倒れこんだ。バーが背中に当たって痛い。それよりも、足首が、痛くて痛くて、たまらない。 さっきまでぼやけていた人影が、ハッキリと輪郭を露わにする。何かを言っていたのがわかったが、内容はよくわからない。 ただ、自分は失敗したんだ、と心のどこかで妙に冷静な部分が囁く。信じられなかった。今まで一度も、こんなことは起きなかったのに。だが左足首の痛みが、真実だと主張していた。 何もかもがわからなくなった。 高校2年生の夏。私は跳ぶのをやめた。
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