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 これまで22回、9月1日を迎えたけれど、あんなに心に残っている9月1日は、6年生の、あの時だけだ―――  小学校最後の夏休みも結局、手つかずの宿題を家族総出で片づける最終日を過ごし、ベッドに入っても、鼓膜に録音された父の怒鳴り声が延々と再生されて眠れなかった。いや、本当は前日までの夜更かしな生活が原因だったのだが、父のせいにすることで自分の罪を和らげていた。  タオルケットを弄びながらしばらくモゾモゾと意味のない寝返りを繰り返していたら、ようやくウトウトと眠気がやってきた。  バンッ!  突然部屋の扉が開き、そこに廊下の灯りを背後から受けたシルエットの父が立っていた。表情は見えないが明らかな憤怒のオーラが陽炎の様に立ち上って父の輪郭を揺らめかせていた。 「徹、自由課題はやったんか…?」  僕が生まれてまもなくから関東に住んでいるのに大阪弁のままの父、怒鳴る父よりこの静かなトーンの父の方が圧倒的にヤバかった。元ボクサーの鉄拳発動が迫っているのが、父の拳の握り具合で分かった。 「今からやります!」 「当たり前じゃ」  まるで鉄製の如くゆっくり重く閉まる扉。薄暗闇に戻った部屋の中、冷えた汗が背中を伝う。何も考えず咄嗟にやりますと言ってしまったが、さてどうしよう。部屋を見回すと、隅のゴミ箱からお菓子の空き箱が顔を出していた。それを取り出して暫し眺めたのち、僕は家中の空き箱を集めて回った。  午前二時、月明かりの中で完成したのは、いくつもの箱をセロテープで繋げたシロモノ。一応ロボットのつもりで作ったシロモノ。胴体部分のティッシュの箱の両横と下部には手足のつもりの連結した箱がぶら下がり、胴体の上部には頭のつもりの箱が乗っている。着色も何もせず色んな文字が書かれたそのまんまの箱の塊。それをランドセルにもたれかける様に置くと、もうただの積み上げた箱だった。  明日父がこれを見たらきっと殴られるなと思いつつも、強烈な眠気に12歳の子供が抗えるはずもなく事切れたように眠った。
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