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「あ、そうだ」
そう言えば、昼食に行く前に小田に頼まれていた書類を提出しなければならなかったのだが、窓口を他の同僚と交代するほんの数分間に小田は席を立っどこかに行っててしまっていた。
翠は書類を手に、小田の席に近付いた。
「課長。遅くなってすみませんでした。この書類」
「はっ」
どうやら本に集中していたらしく、驚いて顔を上げた小田が手から本を離した。
そんなれは机の上に落ち、ちょうど角に当たって翠の足元近くの床に下に開いた状態で落下した。
別に驚かせようと気配を消して忍び寄ったわけじゃないんだけどなと思いながら、翠はそれを拾う。
「あっ!」
小田の焦った声を聞きながら、翠が拾った本のページを閉じて渡そうとすると、ふと背表紙の文字が目に入った。
「これ……小諸沢(こもろざわ)遥(はるか)先生の彗星の使者シリーズじゃ……」
「!」
自宅の本棚にも同じ本があるので、嬉しくなって思わず翠は口にしかけた。
その手の中の本が、本来の持ち主の手に奪い取られる。
「す、すまなかったね、笛木さん。拾ってくれてありがとう。それで、書類はそれかな」
「あ、はい。こちらです」
翠は、書類を小田に渡した。本を拾うために咄嗟に脇に挟んだので、書類は少し変な折れ目がついてしまい、注意されるかと思ったが、何も言われなかった。
まあ、課長の本を拾うためだったし、怒られる筋はないよねと思いながら、翠は席に戻り午後の仕事を再開した。
時々持ち込まれる文書を確認し、パソコンに打ち込んでいく。単純作業の合間に、翠は先ほど見た小田が読んでいた本について考える。
(小諸沢先生のあのシリーズ、五って書いてあったから最新刊よね。彗星の陰に隠れてに極秘裏に地球に降り立った女王陛下と、それを追ってきた主人公の使者がかなり派手な追跡劇を繰り広げて、これまでのスペースオペラ的な内容よりアクションの要素が多めになっていた。私的には三巻が一番好きだったなあ。女王陛下は、主人公に迷惑をかけるようなこともなかったし、強くて責任感のある女性って感じで……)
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