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あと二ページでいっぱいになってしまうので新しいノートを買わなくちゃと昨夜寝る前に思っていたのに、今朝はそんなことも忘れていつもの習慣のように鞄につっこんできてしまった。思いついたことを休憩時間に書き込みに戻ることもあるけれど、今日はその余裕がなく、今までノートのことを思い出さなかった。
さて、どうする、今のノートは何の変哲もない学生が使うような地味なノートだけれど、密かにもっと可愛い表紙のノートにも憧れていた。
それを買うために、以前から目星をつけている雑貨店に寄るか、時間が惜しいので近所のドラッグストアやコンビニで買うか。雑貨店に寄るならば、いつもと違う停留所を経由するバスに乗る必要がある。
休日を待って買いに出かけてもいいが、それまでにぶわーっとネタが降りてきてページがすべて埋まってしまわないとも限らない。
更衣室を後にして出口に向かいながら、もっと早くノートを買っておけばよかったと翠は後悔した。
どちらの路線バスに乗るか決まらないまま、プロットノートを取り出してぱらぱらめくった翠は、昨夜書き留めたネタに目を止めて立ち止まった。
(あ、なんか今いいアイディアが出そう)
そう思ってしまったのが運命を変えた。ここがまだ市役所の職員用のドアを出て数メートル、バスの停留所の側だということを一瞬失念していたのだ。
「笛木さん」
「はいっ?」
背後から声をかけられ、翠はノートをぱたんと閉じる。聞き覚えのある声だ。振り返ると、翠の聞き間違いなどではなく、そこには小田が立っていた。
「お、小田課長」
しかも、すぐ至近距離だ。いつから後ろに立っていたのだろう。もしかしてノートを覗き込まれていたのではないかと翠は焦った。
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