プロローグ

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「す、すいません。こんなところで立ち止まっていて」   翠は、急いで横にどこうとしたが、小田はその場に立ったまま翠を見つめて言った。 「今のは、何かのメモですか。失礼、つい見えてしまったもので」 (み、みみ、見られた? プロット見られた?) 「何やら人物設定のような。セリフも書いてありませんでしたか?」 「か、かか書いてありませ……」  書いてあった、書いてあったのだ。走り書き程度ではあったが、思いついた登場人物の設定と、こんな口癖があったらいいのではないかと思ったセリフを書いていた。  「」付きで候補をいくつか書き、一番いいと思ったものにご丁寧に赤丸までつけて。これではいかにもセリフですと目立たせているようなものだ。  翠の否定の言葉にも、小田は追及の手を緩めない。 「もしや笛木さん……若い子がやっている同人誌とやらを」 「ち、違います! 同人誌は若い子じゃなくても作るし、これは小説の……あ!」  余計な訂正とともに口を滑らせかけた翠は、思わず口を手で塞いでむむむとくぐもった声を出した。  さて、同人誌を作っていると誤解された方がいいか、実は趣味で小説をと白状した方がいいか。いいや、これは日記のようなブログをつけていてその下書き。いや、どれもみんな苦しい言い訳だ。  その間数秒。ふたりは、無言のまま見つめ合う。囲に人気がなくて幸いだった。離れたところから見れば、ふたりは特別な関係にあるのかと疑われても仕方のないシチュエーションだ。  だが、事実はまったく違う。どうにか誤魔化したいと思う翠と、何故か食い下がろうとする小田。互いの頭の中の考えを読み合い、次の一言を練りに練っている。  最初に口を開いたのは、翠だった。
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