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その週の木曜日、翠はあまりの眠気にあくびを噛み殺しつつ瞼が閉じかけ、つい俯きがちになっていたら、同僚の乙葉から、具合が悪いのかそれともメンタルをやられて不眠なんじゃないのと心配された。
さらに、普段あまり話をしない佐野からも、眠気対策にと缶コーヒーをもらってしまう。
言動も行動も控えめにしているのに、見るからに大柄なスポーツマンタイプで、肉体的存在感のある佐野が、いきなり隣に来て缶コーヒーを差し出してきたのには、翠もびっくりした。
おずおずと缶を受け取りながら、翠は見上げると首が疲れるなあとぼーっと思った。確か佐野の趣味は水泳とスキーだと聞いたことがある。いかにもアウトドア派なんだろうなと思わせる体格をしていた。これで豪快に笑っていれば、きっと目立つ存在になっているだろうなと思うこともある。
「カフェインを取ったらいいんじゃないかと思って。ただ、本当に具合が悪いのなら、俺が仕事代わってやるから帰っていいぞ」
さすがにその言葉で、翠は思い切り目が覚めた。そんな風に見られていると知って、うっかりうとうとしている場合ではないことに気づいたのだ。
ちらりと小田の方を見ると、小田も翠を見ていた。
(まずい、小説書いていて寝不足です、仕事出来ません、なんてそんな無責任なこと言っていられない!)
この職場で翠が小説を執筆していることを知っているのは、小田だけだ。だから、他の同僚は翠が執筆でスランプに陥っているなど露知らず、翠が体調不良か、それとも精神的にまいって不眠を患っているのかと心配している。
普段真面目に仕事をしているだけあって、夜遊びや夜更かしが原因じゃないかと言われることはないが、その分周囲に心配をかけているということが申し訳なかった。
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