第一章   作品名『学園ヒーローの恋人は本の虫?』

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 そんな小田が、自分と同じ本をほぼ読んでいて話が合う相手として見出したのが、翠なのだった。だから、翠の悩みを聞くし、相談にものる。それは上司であるからと言うより同志であるからだ。むしろ翠より小田の方が、この関係を維持したがっている。  代わりに、翠にも自分の推しキャラへの思いも聞いてもらうようになった。好きな作品について語り合うので、意見交換もできるというメリットがあった。  ちなみに、小田の好みは強くりりしい女性で、婿にしてもらいたい尽くしたいと思えるようなキャラクターなのだそう。小田にはややMっ気があるのではないかと、翠は密かに思っていた。  小田は今まで誰にも話してこなかった推しキャラクターへの愛情をとことん語れる相手を見つけて満足しているし、翠は執筆が滞ったときやアドバイスがほしいとき、賞を逃して落ち込んでいるときに励ましてくれる相手を手に入れたのである。これこそWin―Winの関係というものではないだろうか。 《敬談社さんのコンテストです。恋愛ものなんですよう》  今回、翠が狙ってるのは、敬談社という出版社が企画している小説コンテストでターゲットは十代から二十代の女性。ジャンルは恋愛もの。主人公は、男女どちらでもいいけれど、十代であること。そして文字数が十万字以上というのが条件だった。  恋愛ものは、翠は実は得意ではない。  何しろ、経験がない。彼氏いない歴イコール実年齢という、あまり嬉しくない事実が、翠の前に横たわっていた。  今までの彼女の人生は、ひたすら読書に費やされたてきと言ってもいい。それで満足していたし、これからもあえて彼氏を欲しいとは思わない。  これまで読んだ本の中には、さまざまなシチュエーションの恋愛が出てきた。  どちらかが病気で亡くなってしまうパターン。どちらかが記憶喪失もの。どちらかが財閥の御曹司もしくは御令嬢の身分差もの。  ひとりの平凡な男の子に学園の美少女たちというハーレムもの。ひとりの平凡な女の子に学園のアイドルたちという逆ハーレムもの。親が決めた許嫁と高校で出会った彼氏との三角関係。不良の彼氏と無垢で純真な彼女の純愛もの。  エトセトラエトセトラ。
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