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《読む方と書く方じゃ、感情移入の度合いが全然違うんですよう!》
翠の訴えに、小田が強く同意する。
《わかる! 読む側だからこそキャラクターに深い愛情を抱き、嫁に欲しい、いや、どうか婿にもらってくださいという気持ちになれる!》
いや、自分は女なんで婿にしてくださいなんて気持ちにはならなかったですと翠は思ったものの、悩みを聞いてもらっているので文字にはしなかった。
呟いたけれども。
声に出してはいるけれども。
《だからですね、今回は王道で行こうって決めたんですよ》
恋愛の王道もの、すなわち。
《学園のヒーローと、自分の容姿に自信のない地味目の女の子との恋愛もの、もちろんハッピーエンド! どうでしょう!》
大筋だけは決め、主人公の女の子をどうするかを考えた。
いっそのこと外見も王道にしてしまえと、髪型は三つ編み、眼鏡をかけた本の好きな控えめな子ということにした。
本好きというキャラクター設定にしたものの、翠は外見を自分に重ねはしなかった。と言うのも翠の高校時代の髪型は、耳の下で揃えたボブ。ちょうどいい具合に伸びてくるとすぐに親に切れと言われ伸ばすことができなかったのだ。
親は、子供は髪が短い方が手入れしやすいと思ったのか、そちらの方が子どもらしいと思ったのか、それはわからない。
あの当時は伸ばしたいと思っていて、髪を伸ばして結んだり編んだりしている子が羨ましかった。髪を伸ばした自分を夢想するも、そんなことで親と揉めるくらいなら、短くてもいいやくらいのものだったが、大学時代も伸ばすことなく、そのまま就職し、今では短い髪もいいものだと思っている。
それから、眼鏡。
翠は、家の外ではコンタクトだが、目を酷使しているので自宅では少しでも目の負担を軽くしようと、帰宅してすぐにコンタクトを外し眼鏡をかけることにしている。 だから、眼鏡姿の翠を見たことがある人間はほとんどいないはずだ。
三つ編みで眼鏡――ほら、みんながイメージしている私とまったく似ていないじゃないと、翠は出来上がってきたキャラクターに気分をよくした。ただ、気になるのは主人公の女の子の性格のおとなしさだ。
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